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ロクブンノイチガール 5

6月くらいにドール趣味に足を突っ込んで、本体も服も大分増えた。
一人ずつに思い入れがあり、印象深いエピソードもあるのだが、ここに書き連ねていくとかなりの長編になる。あと今更だが自分で自分が不安になるので、一旦そこからは目を逸らしていたい。

逸らした目線はどこに行くかというと、先達の方々のInstagramやブログだ。
きれいなドールハウスの中、計算された絶妙な光のもとでふんわりと微笑む女の子たちの写真を見ていると、尊いとはこういうことなのかという気にもなる。
同じモデルのリカちゃんでもオーナーごとに表情が違い、人格や意思すら感じさせるような写真もある。撮る人の愛情あってこそ、被写体はその魅力を存分に発揮できるのだろう。

私も勿論ドールに愛情はある。
最近迎えたジェニーフレンド シオンには、格別の思いがあると言っていい。初めて彼女の写真を見たとき、まずその表情にやられた。
優しく微笑まないキリッと結ばれた唇、クールな目は正面を見据え、だがこちらと視線が合うことはなく、どこか遠くの標的に向けているかのようだ。

カッコいい。殺し屋みたい。

『殺し屋』がカッコいい職業(職業?)なのかはさておき、その日から私は私にとっての『殺し屋っぽい』シオンを探し始めた。
最近のモデルを見ると、何だか表情が優しくなっている気がするし、髪型や髪色が奇抜だったりして殺し屋らしくない(らしいとは何か)。
であれば昔のキャッスル製あるいはタカラ製から探すのがいいのかとは思うが、ヤフオクなどで見かけるシオンは価格が何だかえらいことになっているものが多い。さすがにこの値付けは強気過ぎないかと思って見送ることが続いたある日、これなら適正だろうと思って入札したものを、適正のまま落札することが出来た。

次の依頼を聞こうかしら

明るいブロンドに青い瞳、控えめな色のリップ、白い服に着替えて、バックの壁紙はウィリアム・モリスだ。なのに依頼内容を聞きに来た殺し屋っぽく撮れる。最高だ。
もともと私が暗めのライティングとローキーな写りを好むというのが大きいが、モデルの素質も十分なのではないだろうか。
ちなみにひと仕事終えた後がこんな感じ。何だかユマ・サーマンみたいで、どこからか『キル・ビル』のテーマ曲が聞こえそうじゃないか。

成功報酬はスイス銀行へ振り込んで頂戴

シオンはジェニーと同じ道を志す親友で、ファッションビルの中のショップでアルバイトをしながら、デザインの勉強にモデルにと努力を重ねていた。明るい未来へ進んでいたはずだった彼女の身に何が? と勝手に考えるのも面白い。もとアイドルがプロ雀士になったりする世の中では、もはや何でもアリだろう。それでなくても言わば二次創作というか、妄想だ。

私の妄想の中のシオンは、ヨーロッパのどこかの街にあるビルの屋上で、アタッシェケースから取り出したスナイパーライフルを淀みない手順で組み立てる。標的を確認し、距離、風向き、湿度、空気の流れを素早く正確に見極め、そして撃ち抜く。ライフルを分解して再びケースに収め、証拠となるようなものを残していないか確認したのち、何食わぬ顔で現場を去り雑踏に紛れる。流れるような仕事ぶりだ。
彼女がコードネームとして『スウィートバンビーニ』を名乗る理由は、誰も知らない。


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