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逆さまのこの世界

2020年の初夏、例の感染症騒ぎ真っ只中、2店舗目のお店をオープンさせた。
右も左もわからない中とにかく無我夢中で開店させた。

自粛期間中ということもあって、テイクアウトメインであるベーカリーの需要は騒動の渦中でも上々だった。
連日オープン前から行列ができオープンから30分で製造が追いつかなくなる毎日。
それに加えて新店舗をオープンさせたベーカリーということで話題を呼んで、本店の来客数も増えていった。

新たに従業員を雇い、慣れないシフトを組んで仕事を教えながら、2店舗の数字を管理する毎日。車で約20分ほど離れた店と店を毎日往復した。大変だったけど僕自身は充実していた。

半年ほど経って新店舗の営業にも慣れた頃、突貫工事で雇った従業員が姿を消した。
新しいパートさんともあまりウマが合わず、若干のトラブルを抱えて姿を消した。

若い従業員は生理痛のたびに仕事を休むようになり、その都度本店から応援を呼んで対応した。
そんなことをしているから、本店へ楽しみに来てくれるお客さんにも寂しい思いをさせていた。

だんだんと僕のメモリが足りなくなり、開店から1年が経つ頃、ついに身体が悲鳴をあげた。
動悸は激しく、呼吸は荒く、何か得体の知れない恐怖感に襲われて仕事に向かえない。
2週間くらいで体重は15キロくらい減った。

そのまま病院へ向かい診察を受けて、「バセドウ病」の診断をされた。
新店舗は営業がままならずそのまま3ヶ月の休業をした。

その後の投薬治療と通院と初心者スピリチュアルで少しずつ楽になってきて色々冷静になってこれからの事を考える事ができた。

体制を整え、姉妹店を再オープン。
待ってましたとお客さんに温かく迎えられて現在は割とちょうど良く回っている。帳簿の数字も生き生きとしてきた。それに伴いスタッフたちも楽しそうに営業するようになった。

そもそも事の発端は僕の焦りから来たものだったんだ。

僕は恐れていた。いつかこの町にもモンスターのようなベーカリーができてウチのお客さんを根こそぎ奪っていくのではないか、今は好調でもある日突然お客さんが来なくなり、家族を路頭に迷わせてしまうんじゃないかと。
そこへ例の騒動が拍車をかけて、不安は頂点に達し、今動けるうちにビジネスエリアを確保してしなければと、半ば無理矢理新店舗をオープンさせた。
新しい従業員にはさっさと仕事を覚えてもらうために必死で不安を煽り、
「今のままじゃ食えなくなるぞ、だから必死で仕事を覚えろ!」と圧をかけていた。僕は愛情のつもりだったが、そりゃ姿を消したくなるよね。

ふと、チャゲ&飛鳥の『太陽と埃の中で』の歌詞が頭を横切った

追いかけるほどに掴めなくなる世界。
愛するほどに見えなくなる世界。

そして今まで数十年間正しいと思っていた事の殆どが逆向きであった事を痛感している今日この頃である。

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