アガサ・クリスティーについて思うところ・海外映像化編

 クリスティーは超人気作家ゆえ、その作品は数多く映像化されてます。白黒映画時代の、「そして誰もいなくなった」(1945年版)や「情婦」(「検察側の証人」)は、ミステリー映画の古典として今も語られることが多いです。
 ただ、「そして誰もいなくなった」はその後何度も映画化されてますが、邦題が「姿なき殺人者」とか「サファリ殺人事件」とか、原形をとどめないものが多い(笑)。以下に書く他の多くの作品もそうですが、クリスティーやミステリーをあまり知らない層のために、邦題に「~殺人事件」と付けられるケースが多いですね。
 クリスティー作品の映像化が本格化したのは1974年制作の「オリエント急行殺人事件」がヒットしてから。その後10年強の間に「ナイル殺人事件」(「ナイルに死す」)、「クリスタル殺人事件」(「鏡は横にひび割れて」)、「地中海殺人事件」(「白昼の悪魔」)、「ドーバー海峡殺人事件」(「無実はさいなむ」)、「死海殺人事件」(「死との約束」)と10年強に立て続けに映画化。特に「ナイル~」はエジプトロケによる本物のスフィンクスやピラミッドの迫力と、豪華キャストで超1級のエンターテイメント作品になっていると思います。もっとも、正直それ以降の作品は徐々にスケールダウンしたいった印象なんですが(笑)。
 「ナイル」「地中海」「死海」でポワロ役を演じたのはピーター・ユスティノフ。本来小柄なポワロを大柄なユスティノフが演じるのは違和感あるはずなのですが、ポワロの中身というか、原作で感じられる知性とユーモラスさを映画からも感じられたので個人的全然違和感なかったです。ユスティノフのポワロは好評だったのか、TVドラマでも何作かポワロ役を演じてますが、その中のひとつ「エッジウェア卿の死」では、なんとジャップ警部役を後にポワロ役の代名詞になるデビッド・スーシェが演じているのは今となっては驚き。
 ユスティノフ版の劇場版ポワロが一息ついたところで、皆さんお馴染みのTVシリーズ「名探偵ポワロ」がスタート。上記のスーシェが演じるポワロは最高のはまり役。内容も、原作の再現度が半端ない。また、原作では初期にしか登場しないヘイスティングス、ジャップ警部、中盤から登場のミス・レモンをレギュラーとして固定して「ファミリー感」を作ったのもドラマを面白くした要因だと思います。このシリーズは足掛け約25年でポワロ作品(ほぼ)全作映像化という快挙を成し遂げました。
 この「名探偵ポワロ」のTVシリーズとほぼ同時期に「ミス・マープル」のTVシリーズも制作されました。こちらはほとんど見れてないのですが、「ゼロ時間へ」はじめ本来マープルが登場してない多くの作品が「マープル物」として制作されてるので、どういう風に処理されてるのか興味あるところです。
 ここ数年、またクリスティー作品の映像化が増えてきた印象です。その代表がケネス・プラナーがポワロを演じる「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」「ヴェネチアの亡霊」(「ハローウィンパーティー)。今となっては、なぜ「ハローウィンパーティー」の邦題が「OO殺人事件」じゃないのか疑問ですが(笑)。ただ、プラナー版に関しては、全体的にトーンが重すぎること、ポワロ自身の描写に尺を割きすぎてるところが個人的にユスティノフ版やスーシェ版よりイマイチの印象。本来ポワロの役割は主役であると同時に「狂言回し」なので、そこを掘り下げる必要はない気がします。まあ、それだと今の世の中「人間描写が薄い」とか批判されるかも分かりませんが。
 プラナー版の映画製作とほぼ同時期に、イギリスでTVドラマとして「そして誰もいなくなった」「ABC殺人事件」「無実はさいなむ」「検察側の証人」などが立て続けに制作。しかし、個人的にはやはりこちらもトーンが重すぎる印象。まあ、「そして~」は原作通りといえばそうなんですが。また、このあたりの作品は「原作改変」も目立ちます。特に「ABC~」の序盤でジャップ警部を死なせたこと、「無実は~」で犯人を原作と変えてしまったことは、間違いなく「原作改悪」というやつだと思います。

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