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第3回 転機その2 〜1枚のチラシ〜

渡されたチラシにはこう書いてありました。
「創業支援セミナー(全5回)」
先輩は苦しんでいる自分に対し、ブライダルカウンターの現状を打破するヒントがあるかもしれないと、取材先で知ったこのセミナーのチラシをわざわざ持ってきてくれたのです。
何か少しでもプラスになるものがあればいいな。と軽い気持ちで参加を決めたこのセミナーへの参加が私の人生を大きく動かします。

手元に残っていた資料によると、セミナーの1回目には創業するにあたっての理念やミッション、ビジョンなどの話があったようです。
実はこの時点で写真館開業はおろか自分の「独立」を考えていたわけではなく、今自分が任されている仕事、つまりブライダルカウンターがどうすればうまくいくかという「方法」のことを考えていたので1回目の内容はあまりよく覚えていません。
むしろブライダルカウンターに携わる時に自分の中に「佐賀の結婚式を迎えるカップルを幸せにする」という明確な理念があったので、なんだ「当たり前じゃん」程度だったのでしょう。
セミナーは全5回。この間に「ある出来事」がなければこのセミナーは自分にとってあまり意味をなさないものになっていたと思います。

その出来事とは…….ある日、運営会社の担当者さんと私は言い合いになりました。私は、このブライダルカウンターはエンドユーザーが来るところなので、式場紹介だけでなくドレスの紹介やその他カップルが興味を持つ商品も扱うべきだ。
人参、きゅうりは置いているけれど白菜、大根は扱っていない八百屋にはお客様は来ない。お客様が喜ぶことだけを考えサービスを構築しましょう。と主張しました。
しかし担当者さんは、ドレスを扱うと式場が嫌がるので扱わない。(持ち込みを奨励していると思われる)と言います。
......つまり、このカウンターを運営している会社が当時見ていたのは実際に結婚をする「お客様」ではなく「式場」であり、狙いは式場からの「広告」だったのです。
『なぜこんな初歩的なミスが起こってしまったのか!』
この店の収益方法やターゲットはもとより、根本的な理念について現場リーダーである私と運営会社とで合意が出来ていなかったのです。やはり私の未熟としか言えません。そしてその言い合いの中、私の中で決定的な一言が彼の口から発せられます。
「笠原クン、やりたいことがあるならば自分のお金でやりなさい。」
「……」
まあ今思うと当然です。普通の社会では至極当たり前のことでしょう。当然その担当者さんは何も悪くありません。それが仕事なのです。何も実績のない他人の夢に、自分の立場をかける理屈はありません。
このことを機に「この仕事は続けることができない」と感じました。次の契約の延長はない。来年は安定した仕事は確実になくなります。

その出来事の後、出席した残りの創業セミナーでは自分のカメラマンとしての将来、つまり自らの「独立開業」を念頭にセミナーを受けるようになりました。
恥ずかしい事も書いていますが、TOPの写真は当時の自分が書いたままのもの。
そう、このSWOT分析が私の写真館開業へと導く大きな要因になります。次回はそのSWOT分析についてご紹介したいと思います。(続く)

〜あとがき〜
なぜ当時の私は運営会社と理念の確認をしっかりと行わなかったのでしょう?今となっては思い出せません。
いずれにせよ、「この仕事や会社は何を達成するために存在するのか?」はしっかりと設定した方が良いです。
ただ、会社や仕事における理念と、経営者や労働者個人の欲求やエゴは混同しないというか明確に分けて認識しておいた方が良いと思います。
私もうまく言語化できませんが、仕事の理念は「誰か」(多くはお客様)のために何をするか?であり、「自分」の欲求はそれを達成した時にもたらされるものであると私は居心地が良いです。
私の欲求......自分の中ではまあまあ明確ですが、それはまたいつか。

株式会社ハレノヒ代表取締役/2015年、築100年の古民家をリノベーションした写真館をオープン。地方写真館の再定義を行うことによって人とまちが豊かになる仕組みをつくろうとしています。その他セミナー講師や各種メディアにも出ています。