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第10回 なぜ写真館だったのか?(その3・写真館という言葉の価値)

「お仕事は何をされているんですか?」初対面の方によく聞かれる質問です。
私はこう答えます。
「佐賀で小さな写真館をしています」すると半数以上の人が「へぇ~……」と答えた後、「じゃあ、人を中心に撮ってるんですねー……」となり話はだいたいそこで終了です。
もし私が男女問わずモテようとするならば「フォトグラファーです」とか「フォトスタジオを経営してます」なんて言えば良いのかもしれませんが、私はそう言いません。(それも違いそうですが)
それはなぜか?今回と次回は私が写真館をつくることを選んだ理由の中でも、そんな言葉の意味にまつわるお話です。

さて、皆さんは「写真館(シャシンカン)」と聞いてどんなイメージをされますか?大手の子供写真館や、それともまちの写真屋さんを想像するのでしょうか。
私はショーウインドウに高級感のある肖像写真が何点か飾ってあって、趣のある家具に奥の暗いスタジオにはローマのような絵の描いてある背景紙が垂れている写真館を想像します。きっと私に職業を質問した後「あぁ……ね」という反応する方は、私と同じそんなイメージなんだと思ってます。もっと極端に言えば、「(ダサそう……)」「(衰退産業で頑張ってるんだな……)」みたいなところまで思っている人もそこそこいる印象です。(ちょっと卑屈っぽいですかね?)

でもスタジオを作ることが決まった当初、私は写真館に対して本当にそんなイメージを持っていました。なので「写真館」の文字を自分のお店の名前には入れないようにして、仮の名前として「ハレノヒ柳町フォトスタジオ」と名付けました。
しかし「仕事は写真館です」と言っている今も、名前をそのまま採用されているのにも理由があります。

その理由もお話しする前に、もう一つ質問をさせてください。「写真館(シャシンカン)」と聞いて、あなたはどんな仕事内容を想像しますか?
今度はどうでしょう?私は七五三や成人式、家族写真など一般のお客さんが写真を撮りに来るお店をイメージします。
勘の良い方はもうお分かりですよね。最初の「うちは写真館です」と言うようにしている理由の方は、写真館という場所が何をしてくれるところかが世間にはっきりと認知されているからです。
私は新しく商売を始めるにあたっての一番のハードルは「認知」だと考えています。「いつ、どこで、誰が、何を、どのように」サービスをしているのか?それが伝わらなければ、なかなか人は来てくれません。
当社『ハレノヒ柳町フォトスタジオ』の場合は
「いつ」 → 写真館なので基本いつでも
「どこで」→ 佐賀の柳町という場所で(店名に柳町が入ってます)
「誰が」 → ハレノヒという名前の会社が
「何を」 → 写真館なので家族写真とか七五三の撮影を(店名ではフォトスタジオを採用しています。その訳はもう少し後で)
「どのように」 → 写真館なのでだいたい想像できると思いますが、他店とは違う特徴などはホームページで確認してもらっています。
このようにお店の名前からだいたいのサービス内容を市場で認知してもらえるように、考えて命名しています。
繰り返しですが、写真館という言葉の最大の魅力はその「何を」の部分を一言で伝える力を持っていることなのです。
なのにうちは店名には使っていませんね。写真館ではなく「フォトスタジオ」という言葉を使う場合、写真を撮るところとは分かりますが、どんな撮影内容を誰向けにしているのかを伝える必要が出てきます。エンドユーザー向けの撮影スタジオではない可能性もあるためです。
ちなみに、もしこれが単なる「スタジオ」だったとしたら認知までの道のりはもっと遠くなります。写真なのか映像なのか?それならまだいいですが、ダンスやヨガ、またはカラオケだと思われるかもしれません。
「ハレノヒ=写真を撮るところ」とすでに認知されていれば良いですが、残念ながら当時は誰もうちのことは知りません。もし「ハレノヒスタジオ」にしていたら、お客様はサービス内容を知るために時間を費やすことになるため、認知されるにはだいぶ時間がかかったことでしょう。

だったら「なぜハレノヒ写真館にしなかったの?」って話にようやく戻りますが、その答えの一つ目は「SEO(検索エンジン最適化)」対策というものです。SEO(検索エンジン最適化)対策とは、誰かがWebでサービスを検索した時に自分のページを見てもらいやすくするためのホームページ上の仕掛けと私は解釈しています。(専門家ではないので、詳しくは調べてみてください。SEOとは)
例えば誰かが佐賀で七五三の撮影できるお店をWebで検索するのに、ストレートなら「佐賀 七五三 撮影」で検索するでしょう。七五三は写真館でも撮ってます。だから「佐賀 写真館」で探すかもしれません。これが大多数なら「ハレノヒ写真館」が正解でしょう。
でも私は「佐賀 フォトスタジオ」で検索する人もターゲットにもなると予想しました。例えば写真館という言葉にあまり良いイメージを持ってなく、少しでもおしゃれそうなお店を探している人や広告写真を撮れるカメラマンを探している人などです。(当社は広告も撮影しています)
写真館で探す人とフォトスタジオで探す人、その両方に見つけてもらうために店名にはフォトスタジオを採用したのです。写真館で探す人に対しては、ホームページのお店を紹介する文章に写真館という言葉を入れました。(ページのなるべく上位にあるキーワードは検索に掛かりやすいようなので)
つまり「ハレノヒ柳町フォトスタジオは写真館です。」という伝え方です。
仮にこれが逆だった場合はどうでしょう。「ハレノヒ写真館はフォトスタジオです。」少し意味が伝わりにくいと思いませんか?(SEO的には問題ないかもですが)
これが写真館という言葉の価値に気がついた後でも店名を変更しなかった理由の一つ目です。

では理由二つ目。それはズバリ「語呂」(笑)
実はこっちの方が気持ち的には大きかったような気がします。写真館という自分の中だけでなく世間的にイメージが低下しているワードより、フォトスタジオの方が洒落た感じがするということもありますが、単に「柳町ハレノヒ写真館」より「ハレノヒ柳町フォトスタジオ」の方が語呂が良かったからでした。いろいろ説明しましたが、結局気分も大事って話です。

このように「写真館」という言葉には、先人たちの努力によって育まれたサービス内容がすぐに伝わるという素晴らしい価値が存在しています。しかしながら同時に「古くさい」などのマイナスイメージも与えてしまうかもしれないという問題もあるのです。
でも大丈夫。私が行ったその解決策については次回お話しします。

(あとがき)
実際「写真館」ってどう思われているのだろう?そう考えた私はオープン前にアンケートをとりました。子供写真館の方は「明るくて店内に入りやすい」という結果になりましたが、まちの写真館はどちらかというと「入りにくい」「親しみがない」「暗い」という結果でした。これは私が感じていた印象に近いものです。
ではなぜそんな風に思われるようになってしまったのか?私が考える理由を三つだけ挙げると、
①長い間フィルムカメラやストロボなど知識と技術を持つ人間しかできない職業であったため、お客様に喜ばれるものを研究開発せずとも仕事にありつけた。
②結婚式場や学校など、自動的にお仕事が来て効率的に儲けられるお仕事の方に比重が向いてしまい、エンドユーザーと直接つながることを大事にして来なかった。
③同じ職業同士でつながり、業界内部の価値観で優劣が決められてきたため、消費者との価値のギャップが生まれてしまった。簡単に言うと、お客様のニーズやウォンツを中心とした正常な市場競争が写真館業界に生まれてこなかったということです。
でも今は違います。カメラはデジタルカメラに変わり、ユーザーは自分の好みをはっきりと言える時代になりました。もしかすると「喫茶店」と「カフェ」のように、「写真館」と「フォトスタジオ」では言葉から受ける世間のイメージが変わっていくのかもしれませんね。
もう一度言います。『ハレノヒ柳町フォトスタジオは写真館です』でも、ハレノヒは写真館ともフォトスタジオとも異なるイメージの写真館になろうと思ってます。なぜなら、それが世の中に幸せを増やすための方法なので。その話はまたいずれ。

株式会社ハレノヒ代表取締役/2015年、築100年の古民家をリノベーションした写真館をオープン。地方写真館の再定義を行うことによって人とまちが豊かになる仕組みをつくろうとしています。その他セミナー講師や各種メディアにも出ています。