ゲイリーゲイリー

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英雄譚へのアンチテーゼ

現代性を帯びた古典的SF作品宗教が狂信へと変わり、政治が新たな軋轢を生み出す。 人類史で繰り返されてきたそれらを圧倒的なスケールで描き、「神話」の構築を試みる一方で「神話」そのものにも批評的な本作は、神秘的で普遍的で現代的だ。 原作に忠実でありつつも主人公ポールを英雄として描くのではなく、母ジェシカのプロパガンダに苦悩し葛藤する青年として、諦念と悟りに満ちた瞳へと移り変わってしまう悲劇の主人公として描いたことで訓話としても機能する。 そして何より、チャニというヒロインを通じて

    • 真実は我々が作り上げたものに過ぎない

      本作はミステリーとしての外皮を纏っているかもしれないが、その実はアンチミステリーと言っても過言ではない。 ミステリーとは謎を解明し真実を明らかにするものだが、本作では真実という幻影が眼前で幾度となく姿形を変え、我々を嘲笑う。 そう、本作は真実を解剖するのではなく、断片的な情報を基に人々が何を真実と定義していくか、その過程こそを緻密に解剖していく。 明瞭で確固たる真実など空想に過ぎず、つぎはぎだらけで曖昧模糊としたそれが揺蕩っているに過ぎないことを明らかにするのだ。 落下を描

      • たとえ哀れであったとしても

        本作は「バービー」同様、支配下に置かれていた被造物(実験体・玩具)が社会やジェンダー構造という檻の中で、何人たりとも私を所有・支配できないという事を高らかに宣言する。 女性を所有物として扱う男性中心社会の価値観に対し、ベラを通じて破壊と解放を行うのだ(何かの支配下、何かに縛られているものを描いてきたヨルゴス・ランティモスが破壊と解放を描くという点も特筆に値する)。 私という存在を自身で定義し、私という存在の所有者は私だと信じて疑わないベラはどこまでも逞しく美しい。 物語の冒

      英雄譚へのアンチテーゼ