合コンとユニコーンガンダム
2007年。当時まだ二十代だった私は福岡で資格を取るため学生をしていました。
次第に厳しさを増す試験や課題をこなしつつ迎えた、冬休みも目前の12月。
同期生のKさんという方から「知り合いの女性に声かけてセッティングできそうだから、来ない?」と誘いを受けました。
こっちは男三人。相手は女性で同じく三人。ようは合コンというやつです。
他の人からの誘いなら一も二もなくイヤデスと返すところですが、このKさんめちゃくちゃ真面目で性格も穏やかで優しく、こちらのことも何かと気にかけてくれていたのでそう無下にできません。それにKさんのお誘いならおかしな人が来るわけないという安心感もあります。
そして何より、場所と日程を聞いて即断即決しました。
場所は福岡一の繁華街天神。
そして日程はそう、その日こそMG ユニコーンガンダム Ver.Kaの発売日だったからです。
なんでガンプラ発売日に合コン入って喜ぶのか?と不思議に思うでしょう。というのも、私が当時住んでいたのは福岡でもかなりの郊外でした。
周囲におもちゃ屋も模型屋もまったくない、という今思うとよく生きてられたなとなる環境ですが、時折ボークスやビックカメラなどのある天神や、ヨドバシカメラのある博多に足を運びなんとか生きながらえていました。
MG ユニコーンガンダム Ver.Kaは当時のMGとしてはなかなか高額な部類のガンプラです。
できれば値引きのある店で買いたいのですが、いかんせん電車賃も馬鹿になりません。あと単純に遠出するのは寒い。
しかし「人に会う」「食事をする」というついでの目的があればまあしょうがないなと飲み込めるわけです。
Kさんからも自分以外にもAさんという同期生を誘い、セッティング完了したので予定通り…と報告を受け、私はビックカメラのポイントカードとMG ユニコーンガンダム Ver.Kaの代金を握り締めその日を今か今かと待つのでした。
そしてMG ユニコーンガンダム Ver.Ka発売日当日。
私は予定通り天神に向かい、ビックカメラの模型コーナーに駆け込みました。
到着したのは夕方なので商品の山はだいぶ減っていましたが、それでもまだまだ余裕で購入できました。今から思うといい時代でしたね。
無事会計を終え、普段使いしていた手提げ袋に入れてみます。
当時使っていたそれは見た目の割にかなりの容量があり、大きめのMG ユニコーンガンダム Ver.Kaの箱もぴったりと専用袋のように入り、チャックもきちっと閉まってくれました。
すべてが想定通り。素晴らしい。私は意気揚々と駅に向かい…改札を通る前にいや違うわ!危なっ!となって引き返すのでした。
素で帰るところでした。
そして慌てて待ち合わせ場所に向かうのでした。もちろん手にはMG ユニコーンガンダム Ver.Kaを下げたまま。
Kさんと無事合流し、そしてたどり着いたのはおしゃれな…おしゃれな…イタリアンレストラン…だったと思います…たぶん。いかんせん17年も前のことなので記憶に自信ないですが。
そして店には既に女性陣が来ており…たぶん同世代だったと思います…。うん、たぶん…。いかんせん17年も前のことなので記憶に自信ないですが。と簡単な挨拶を交わしました。
さて女性陣は三人。こちらは私とKさんの二人。
人数が合いません。
「あの…Kさん?誘ってたAさんいないけど、どうしたんです?」
「なんか…寝てるみたい」
「寝てる…」
微妙に暗雲立ち込める中、幹事であるKさんが音頭を取り乾杯し合コンスタートです。この時私の頭にあったのは、MG ユニコーンガンダム Ver.Kaのサイコフレームのクリアパーツって特殊な素材なんだよね?ランナー状態でどう見えるのかな…ここで確認するのはさすがに駄目だけどトイレの中なら良くない?いやでも手提げ持ってトイレ行くって完全に不審者の行動だよな…説明書も早く読みた
「あの、お幾つですか?」
「?」
「…いや、あの…年齢…」
「えっと…幾つでしたっけ?」
「なんで人に聞いてるんですか!?」
なんと自分の年齢すらしばらく忘れてしまっていたのです。さすがMG ユニコーンガンダム Ver.Ka。恐ろしいキットです…。
ただでさえ一人欠けてちょっと空気が悪いのに、肝心のもう一人は精神がユニコーンガンダムのサイコフレームに持ってかれている。
Kさんの(これはやばい…)という無言の声が聞こえてくるようでした。
さすがMG ユニコーンガンダム Ver.Ka。
私の正面に座っていた女性は、一人が思いっきり遅刻していることにだいぶ苛立っている様子でした。
それでも女性陣他二人とKさんのフォローでなんとか場を取り繕ってる間に、コース料理はメインが運ばれてきます。
その肉料理を食べながら、私はビームマグナムのカートリッジ交換ギミック試したい。パーツ細そうだけど耐久力大丈夫かな。と心がどっか行ってました。だって仕方ないじゃないですかMG ユニコーンガンダム Ver.Kaなんですから。
そうこうするうちにようやくAさんが到着しました。しかし時すでに遅し。
もうデザートが運ばれてきています。
Kさんの頭の抱える様子が見えるようです。
そんな中、私も我慢の限界を超え足元に置いた手提げバッグのチャックを開き、MG ユニコーンガンダム Ver.Kaのパッケージをちら見。
うんかっこいいね。
気まずい空気の中、私一人だけ頭の中が宇宙世紀。
会計を終え、Kさんが「じゃあ、二次会も兼ねてカラオケ行くかラーメンでも食べに…」「帰ります」「帰…ええ!?」
「まだレポート課題があるので」
嘘じゃないです。本当にありました。まあほぼ出来てたので行っても余裕でしたが、もし次がカラオケボックスならそこでMG ユニコーンガンダム Ver.Kaの箱を開けかねません。いや、やる。
空気を気にしないAさん。そしてまじか…俺一人でこれを…という思念が飛んできそうなKさんと別れ、私はまっすぐ帰宅したのでした。
人をここまでさせるMG ユニコーンガンダム Ver.Ka。
なんと罪作りなガンプラなのでしょうか。
ちなみに後日あの後のことを聞いたら、まったく盛り上がることもなく早々と解散になったそうで、Kさんもさすがに苦笑いが隠せていませんでした。
ここまで読んで誤解しないでいただきたいのですが、私がいつもこんな事をしているわけではないと声を大にして言わせていただきます。
類似の話はいとこの結婚式が博多であるので、行きに魂SPECのドラグナー1を買ってから参加したことと、海外旅行の往路で成田空港内のショップでROBOT魂のダンバインを見つけて買って海を渡ったくらいです。
独身時代に女性と食事中にもかかわらずこの後ヨドバシカメラに寄って再販のバイファムシリーズを買って、ボーダーブレイクやって帰ろうしか頭に無かった話はまあ直接関係ないでしょう。普通にフラれました。
そうそう肝心のMG ユニコーンガンダム Ver.Kaですが、さすがのボリュームで翌年の三月ごろにようやく完成させました。
それからはずっと実家で保管していたのですが、しかしそれも熊本地震の後に処分してしまい、残っているのはこんな思い出だけだったりするのです。
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