義兄妹の許されざる愛(仮)13
【最終章】-1『逃亡』
紗弥加がロビーに向かうとそこには雄哉がポツリと佇んでいた。
「雄哉さんどうしたんですかこんな所で、帰ったんじゃなかったの?」
「紗弥加ちゃんを待っていたんだ、今から二人で気晴らしにどこか行かないか?」
「でもお仕事はもう良いの?」
「もう良いんだ今日は、こんな時に仕事なんてやってられないよ」
「だけどどこに行くの?」
「紗弥加ちゃんの行きたい所で良いよ、どこ行きたい? でも出来れば楽しい所が良いかな?」
紗弥加の元気を取り戻そうとつとめて明るいそぶりを見せる雄哉であったがそう簡単にもいかなかった。
「楽しい所って言ってもそう簡単には切り替えられないわ、あたし達兄妹なのよ、愛し合ってはいけない関係なのよ」
「確かにそうだけど落ち込んでいても仕方ないだろ?」
「それもそうなんだけど……」
「だろ? だったらこの際思い切って気分転換に楽しい所に行こうよ」
「分かったわ、だったらやっぱり遊園地かなぁ? でもウインドウショッピングも楽しそう、だけど本当はそんなのどうでも良いから雄哉さんとふたりで居られればそれでいい」
「そうか? じゃあ少しだけウインドウショッピングして帰ろうか」
「うん」
その後二人はそろって街へと出かけたがやはりあまり気乗りしない紗弥加は浮かない表情をしていた。
それでも様々な店を見ているうちに表情に笑顔が戻ってきた紗弥加、そんな二人は街はずれの公園にあったある小さな露店が目にとまった。
地面の上に広げられたシートの上には様々なアクセサリーが並べてあり紗弥加の目にはその中の一つ、シルバーのリングが目に映った。
「かわいいこの指輪」
紗弥加がその指輪にくぎ付けになっていると、そこへこの店の店主が声をかけてきた。
「良いでしょそれ、実はペアーなんですよ」
そう言いながらもう一つのリングを紗弥加に見せる店主。
「お兄さんが作ったんですか?」
「そうですよ、どうです? 二つセットで買ってもらえるなら安くしておきますよ」
「ほんとですか? 雄哉さん買いましょう、良いでしょ最後の記念に」
「そうだな、せっかくだから買おっか、お兄さんそれ二つセットでもらえる?」
こうして二人は二つのシルバーリングを購入した。
「ありがとう、買って貰っちゃった。これで心置きなく別れられるかな?」
「じゃあそろそろ帰ろうか、どうする? うちに来る?」
「無理よ、家の人がいるんじゃないの? あたしどんな顔して会ったら良いのか分からないわ」
「そんな事心配しなくても大丈夫だよ、今自立して一人暮らししているんだ」
「でもあたし達もう付き合えないのよ」
「そんな事分かっている。妹が兄貴の家に行く事のどこがいけないんだ?」
「確かにそうだけど、そんなすぐに切り替えられる?」
その言葉に現実に引き戻される感覚に襲われてしまい、自分達二人が兄妹だという事実に耐えられなくなってしまった雄哉。
「そんなの無理に決まっているだろ!」
そう吐き捨てた雄哉の言葉には悔しさがにじみ出ていた。
このまま雄哉を一人にしておけないと感じ、そしてまた自分も一人でいたくないと思った紗弥加は共に雄哉の家に向かう事を決意した。
「分かったわ、一緒に雄哉さんの家に行きましょう」
「ありがとう、実は一人でいたくなかったんだ」
「実はあたしもなの」
「紗弥加もそうだったのか」
その後雄哉の車で彼の住むマンションに着いた二人。
「着いたよ、ここが俺の住むマンションだ」
「随分立派なマンションね」
駐車場に車を停めるとエントランスからエレベーターに乗る二人、すると雄哉は最上階のボタンを押す。
「なに最上階に住んでいるの? 家賃高いんじゃないの?」
「たぶん高いだろうけど、親父が出してくれてるから分かんないや」
「やっぱりそうなのね、それって自立しているって言わないんじゃないの?」
「そうかなぁ?」
「そうよ、まだ学生の身分の雄哉さんにこんなに立派なマンション住める訳ないじゃない、ちゃんと働いて稼いで自分のお金で家賃や光熱費を払って初めて自立って言うんじゃないの?」
「でも一応働いているぞ!」
「それだって夏休みの間だけでしょ?」
「確かにそうだな?」
そうこうするうちにエレベーターが最上階まで着くと、その扉が開き雄哉がエレベーターを降り、左へ向け歩きだした為紗弥加もその後を付いて行く。
しばらく歩くとある部屋の前にたどり着き、おもむろに上着のポケットに手を入れると部屋のキーを取り出し玄関ドアのキーシリンダーに差し込む雄哉。
ドアを開けた雄哉はまず先に紗弥加を部屋に入れる。
「どうぞ、ようこそ我が家へ」
「おじゃましまあす」
紗弥加が静かに雄哉の部屋に足を踏み入れると、その後自らも部屋に入る雄哉。
「きれいにしているじゃない、男の人の一人暮らしだからもっと散らかっていると思った」
「一応ね、いつ誰が来ても良い様にはしているんだ。何か飲む?」
「いや良いかな?」
「そう、それよりあの話本当なのかな?」
「あの話って?」
「俺達が兄妹って話だよ」
「ああその話ね、あたしどうしても信じられないなぁ?」
「だろ? 俺だって信じられないよ」
「でもそれならあたしのママと会長さんや社長さんまであたし達が付き合う事に反対していた事の説明がつくわ、何より冗談でこんなこと言えないでしょ」
「確かにそうだよな?」
「待って、社長さんがあたしのお父さんになるのよね、と言う事は会長さんはお祖父ちゃんになるって事? だからママと初めて会った時も様子がおかしかったんだ」
「そうなのか? という事はお爺様も最初から知っていたんだな」
「そう言う事だったのね」
「なあ、俺達本当にこのまま別れなきゃならないのかな?」
寂しそうな表情で尋ねる雄哉、それに応える紗弥加もまた俯き同じ様な表情をしていた。
「仕方ないよ、兄妹で愛し合うなんて事出来ないんだから」
「良いじゃないか、兄妹で愛し合う事のどこがいけないんだ! なあそうだろ?」
「あたしだって同じ気持ちよ、でもそれはいけない事なのよ」
「じゃあこうしよう、最後に一晩泊まってくれないか? そして明日の朝別れ際に抱きしめあおう、それでお互い忘れるんだ。大丈夫それ以上の事は何もしないから、そもそも兄妹なんだから出来ないだろ?」
「分かったわ、それでお終いにしましょう」
この時紗弥加はとても寂しそうな表情をしており、そんな紗弥加に雄哉が語りかける。
「そうと決まったら必要な物買に行かなきゃね、歯ブラシとかいるだろ?」
「そうね」
この時紗弥加には一つの懸念が浮かび、寂しさを堪えつつその懸念を雄哉に伝える。
「待って、買い物行かなくていいかも」
「どう言う事?」
紗弥加の一言に雄哉は首を傾げていた。
「社長さん達もこの部屋の事知っているのよね」
「そうだな、部屋のキーも持っているし……」
ここで雄哉は肝心な事に気付いた。
「そう言う事か、紗弥加が帰らないとなると真っ先に疑われるのはここだな? 仕方ない、これから房総に別荘があるからそこにでもでも向かおう」
「でもそれだとすぐにそこだってわかるんじゃない?」
「心配ないよ、別荘は他にも葉山と軽井沢にもある、どこの別荘に向かったかなんてすぐに分からないだろう? それにもしかしたらどこか近くのホテルにでも泊まったんじゃないかって思うだろうしね」
「そうなんですか、だったら一晩くらい安心かな?」
「そうと決まったら早速行こうか」
「はい」
その後すぐに身支度を済ませた二人は部屋を出ると足早に車へと向かった。
つづく
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