義兄妹の許されざる愛(仮)7

【第三章】-3『紗弥加の思い』

 その時会長室前の秘書室では会長の広瀬が急用から帰っており、高木と何やら話していた。

「会長おかえりなさいませ、御一報いただければロビーまでお出迎えに参りましたのに、君も何をやっているんだ、こう言う連絡は君が行うべきじゃないか!」

 やんわりと第二秘書の原を叱る高木、それに対し広瀬がやさしくフォローをする。

「いや良いんだよ、私が連絡をしようとする原君をとめたんだ、高木君達も仕事が忙しいと思ってね、それより君には紗弥加ちゃんの相手をするように頼んでおいたはずだが?」

「それが雄哉さんが自分の方が歳が近いから自分が相手をすると言うもので、歳が近い分だけ話しも会うのではないかと……」

「そう言う事か、分かった、確かにそうだな」

 そう言うとそっと広瀬は会長室に通じるドアを開けた。

 会長室に入ると開口一番申し訳なさそうにお詫びの言葉を口にする広瀬。

「いや申し訳ない、急に人と会わなければいかなくなってね、随分待ったんじゃないか?本当にごめんね」

 その声により広瀬が帰ってきた事に気付いた紗弥加はすくっと立ち上がると笑顔で挨拶をする。

「会長さんこんにちは、おじゃましています」

「こんにちは紗弥加ちゃん、待たせてしまって悪かったね」

 広瀬の言葉に雄哉が抗議の言葉を口にをする。

「お爺様遅いですよ、紗弥加ちゃん待っていたじゃないですか!」

「ほんとすまなかった。普段経営は社長である息子に任せているんだが知り合いがどうしても会って相談したい事があるというものでね、それが今日じゃなきゃ空いてないって言うんだ、ほんとごめんね、どうぞ座って」

「はい失礼します」

 ひと言言うと紗弥加が再びゆっくりとソファーに腰を下ろすと、広瀬も雄哉の隣に腰を下ろした。

「ほんとに申し訳なかったね、紗弥加ちゃんとの約束の方が先だったのに……」

「大丈夫です、雄哉さんがいてくれたので楽しく待つ事が出来ました。こちらが無理を言って時間を頂いているんです何度も謝らないで下さい、それにそう言う事では仕方ないじゃないですか、お仕事の方が大事なんですから」

「ありがとう紗弥加ちゃん、そう言って貰えると少しは気が楽だよ」

 その時広瀬は紗弥加の持ち物に気が付いた。

「ところでそれなに持っているの?」

「あっそうだ、これ先日のお礼です、母が持って行きなさいって、つまらないものですがどうぞ!」

「そんなの気にしなくてよかったのに、かえって悪い事しちゃったんじゃないの?」

「いえそんな事ありません」

「そう? でもせっかくだから頂いておこうか、ここまで持ってくるの重かったんじゃない、ありがとね」

 やさしい笑みを浮かべながら言いつつ紗弥加からお礼の品を受け取る広瀬。

「いえたいして重くありませんでした、大丈夫ですから気にしないで下さい」

「そう? じゃあありがたく頂くよ、どうもすまないね」

 そんな時、隣に座っていた雄哉が広瀬にある頼みごとをする。

「お爺様、紗弥加ちゃんちは母一人子一人であまり裕福ではないらしいんだ。だから高校を卒業したら進学せずに就職したいって言ってるんだけど、その時が来たらお爺様に彼女の就職の世話を頼めないかな? 例えば系列の子会社とかさ」

 この時すべてを知っており、そして先日紗弥加の住むマンションを訪れていた広瀬はそんな雄哉の言葉に疑問に思っていた。

「待って下さい雄哉さん、その話は自分で探してみるから良いって言ったじゃないですか」

「ほんとにいいの? 今の時代高卒じゃなかなかいいとこ見つからないよ」

「かまいません、だって最初から人に頼っていたらこの先ずっと頼ってばかりの人生になりそうで、それに言ったじゃないですかまだ時間はあります。どうしても見つからなかったらその時はお願いします」

 そんな紗弥加に広瀬は感心していた。

「偉いんだね君は、自分で何とかしようとする気持ちに感心したよ。気に入った、もしどうしても見つからなかったらその時はまた連絡しなさい、系列会社の中から何社かあたってみるから……」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」

 笑顔で礼を言う紗弥加であったが、この時の紗弥加は出来るだけ自分の力で就職先を見つけ出そうと心に決めていた。

 その後広瀬は隣に座っていた雄哉に声をかけた。

「雄哉はもう自分の仕事に戻りなさい」

「えーっもう少しいさせてよ、この子かわいいじゃん」

「なに言っているんだ、お前は遊びに来ているんじゃないんだぞ!」

「そんな事言われたって、自分の仕事と言われてもお爺様に付いて勉強するのが仕事だからなぁ?」

「分かった、それなら取り敢えず秘書の高木君に指示を仰ぎなさい」

「分かったよ、せっかく紗弥加ちゃんと楽しく会話出来ると思ったのになぁ?」

 そうして雄哉は残念そうに肩を落としながらとぼとぼと会長室を後にした。

 紗弥加はまっすぐと広瀬の方を向き背筋をぴんと張ると、改めて広瀬に対し礼を言う。

「会長さん、先日は本当にいろいろとありがとうございました」

 言いながら紗弥加は深々と頭を下げる。

「何言っているの、良いんだよそんな事気にしなくて、それよりおかあさん元気?」

 この時送ってもらった時の事もあり、何故母の事を聞くのだろうと不思議に思う紗弥加。

「はい元気です、本当は母も今日一緒に来るべきなのでしょうが仕事でどうしても来られなくて申し訳ありません」

 この言葉に広瀬は社長である息子の雄二に会ってしまう可能性が無くなったため、麗華が来られなかった方が都合が良かったと内心ほっとしていた。

「だから良いんですよ気にしなくて、仕事では仕方ないじゃない、生活していくにはまずは仕事をしてお金を稼がないといけないですからね」

「ありがとうございます」

 その後も二人は互いの年齢差の為か多少かみ合わない部分がありながらも様々な会話を楽しみ、しばらくして紗弥加は広瀬と共に会長室を後にした。

 広瀬や高木と共にロビーまで下りてくると広瀬達に見送られる紗弥加。

「今日はほんとにありがとね」

 そんな広瀬の言葉に「こちらこそありがとうございます」
一言そう言って紗弥加は会社を後にしようとロビーを出ると、そこには一台の車が止まっていた。

 運転手の石田がすっと後部座席のドアを開ける。

「お乗り下さい畑中様」

「大丈夫です、一人で帰れますから気にしないで下さい」

「ですが会長からの指示ですので、しっかり御送りする様にと……」

「分かりました、ではよろしくお願いします。でも様は無しにして下さいね、高木さんにも言いましたがあたしそんなに偉い人間ではありません」

 そう言うと紗弥加は車に乗り込んだ。


つづく

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