義兄妹の許されざる愛(仮)5
【第三章】-1『広瀬の正体』
その後紗弥加達を乗せた車は畑中家の周辺へと辿り着いた。
「この辺ですよね」
ポツリと放った石田の声に返事をする紗弥加。
「はい、もう近くなのでこの辺で大丈夫ですよ」
「そんな事言わずに家の前まで送らせてもらえないか? 私もしっかり送り届けると言ってしまったしな」
広瀬の言葉に申し訳なさそうに告げる紗弥加。
「ありがとうございます、じゃあ次の角を右にお願いします」
その言葉に応える様にハンドルを右に切る石田。
石田がハンドルを右に切り少し走ると石田に告げる紗弥加、そこには大きなマンションが現れた。
「このマンションです、ありがとうございます」
車を降りようとする紗弥加に広瀬が声をかける。
「私も降りよう、あちこち連れ回してしまったからね、挨拶くらいはしておかないと」
実はこの時広瀬はある疑念を抱いておりそれが事実なのか確認してみたくなった。
「分かりました、七階なのでついて来て下さい」
その声とともに車を降りた紗弥加がマンションへと歩き出すとその後を広瀬が付いて行く。
その後自分の部屋の前まで付くと合鍵でドアの鍵を開けドアを開ける。
「ただいまぁ、ママちょっと来て、送って来てくれた人が挨拶をしたいって」
その声に母親の麗華は、自分こそ礼を言わなければとすぐに玄関へと飛んできた。
「おかえりなさい、ご迷惑かけなかった?」
言いながら玄関先まで小走りにやって来た麗華であったが、紗弥加が送ってもらったというその人物の顔を見てある程度予想は出来ていたものの、まさかと思い唖然としてしまう麗華であった。
この時までまさかと思っていた広瀬であったが、それでも麗華同様驚いてしまい二人の間に一瞬の静寂が流れた。
それでも二人は紗弥加に気付かれぬよう平静を装い、その後何事もなかったかの様に会話を続ける二人。
「いろいろ連れ回してしまい遅くなってしまって申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ色々ご迷惑をかけてしまったようで申し訳ないです」
「ママ夕ご飯ごちそうになったのよ、それと服が濡れてしまったからと新しい洋服を買って頂いたの、あと病院代も出していただいたのよ」
「そうなんですか? ほんとに申し訳ありません。いくらだったんですか? せめて洋服の分だけでもお支払いさせて下さい」
「いや良いんですよ、私からのプレゼントなんだから」
「でもそれではほんと申し訳ないです」
「気にしないでください、あなたの顔を見てよけいにそう思いました」
うっかりそう言ってしまった広瀬の言葉に二人は知り合いなのかとの思いを巡らせる紗弥加。
「そうですか? では遠慮なく頂いておきます。ありがとうございました」
ここで麗華は紗弥加に風呂に入るよう促す。
「紗弥加何しているの? 雨に濡れて体冷えたでしょう、お風呂沸かしてあるから入っちゃいなさい、良くあたたまるのよ」
「はい、では会長さん今日はいろいろとありがとうございました」
もう一度広瀬に一言礼を言うと着替えを手に浴室へと向かう紗弥加。
紗弥加が風呂に入った事を確認した二人は再び会話を始めたが、その内容はそれまでのものとは違うものだった。
「まさか君だったとはな?」
「あたしも驚きました、まさかお義父さまだったなんて」
「ほんと君には悪い事をしたな? おなかに子供がいるにもかかわらず息子との仲を引き裂く様な真似をしてしまって、彼女があの時の子か?」
「はいあの時の子です、もうあんなに大きくなりました。でも謝らないで下さい、元々不倫でしたからこうなる事は覚悟していました。奥さんがいる人を好きになってしまったあたしが悪いんです」
「あれから結婚は?」
「していません、ずっとシングルマザーのままです。あの子にも父親が必要かなとも思いましたがこればかりは相手があっての事ですから、それにあの子にとっての父親は雄二さん一人だけです」
「そうか、結婚していながら君と不倫なんてした雄二が一番悪いんだ、許してくれな」
「何言っているんですか、もうとっくに許していますよ、何年前の話だと思っているんです?」
「そうか、ありがとう許してくれて、あの子がお風呂から出るとまずいからもう行くな、元気でな」
「お義父様もお元気でいらして下さい」
その後広瀬達を乗せた車はマンションを後にした。
風呂から上がった紗弥加は洗い髪をタオルで拭きつつ麗華に尋ねる。
「ねえママ、ママもしかして会長さんと知り合いだったの?」
「ううん、そんな事ないわよ」
「そう? なんかさっき会長さんがママの事知っている風な言い方していたからもしかして知り合いなのかなって思って」
「そんな訳ないじゃない、それより今の人会長さんなの?」
本当は知っているにもかかわらずとぼけて知らなかったふりをする麗華。
「そうよそれもすごい会社の、一体どこだと思う? 広瀬コーポレーションだって、あんな大きな会社の会長さんだなんてすごいよね」
「そうね、普通に暮らしていたらあたし達なんて縁のない方よね」
「そうだね、そう考えたらママと会長さんが知り合いな訳ないか」
紗弥加の納得する言葉にうまくごまかそうと麗華は更に続ける。
「そうよどこをどうしたらママとあの人が知り合いになる訳? それより今度お礼しないとね、でもどうしよう連絡先分からないわ、いきなり伺うのも失礼だし……」
「あたし分かるわよ、何かあったら連絡しなさいって名刺貰ったの」
「そうなの? じゃあ早速明日にでも連絡してくれる? ちょうど明日日曜日だし菓子折りでも買いに行きましょう」
「分かった、じゃあいつ行く?」
「それは先方の都合に合わせた方が良いんじゃない忙しい人だろうから、紗弥加も今夏休みだからある程度都合付くでしょ?」
(でもどうしよう、紗弥加は心配ないだろうけどもしあの人に会ってしまったらあたしが行くと気付かれてしまうわよね、もし気付かれてしまったら紗弥加にどんな影響が出るか分からないわ、仕方ないわね、紗弥加一人で行かせるしかないわね、それなら気付かれる心配も少ないわ……)
そう思ってしまった麗華は仕方なく紗弥加に語りかける。
「ただママの方が今仕事が忙しくて休めないのよ、ほんとは一緒に行った方が良いんだけど一人で行ける?」
「大丈夫よこの位、まかせて、あたし一人で行けるって」
そう言うと無い胸を張ってみせる紗弥加。
つづく
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