義兄妹の許されざる愛(仮)2

【第一章】-2『初めて見るブラックカード』

 その後紗弥加達を乗せた車は目的の店へと到着した。

「到着いたしました会長」

「着いたかご苦労さん、さぁ行こうか、店の人も待っていてくれているからね」

「はいそうですね」

「石田君、ここでは邪魔になるから車を近くのコインパーキングにでも止めて来て下さい」

「そうですね、かしこまりました」

 紗弥加が広瀬や高木とともに車を降りて店へと入ると、そこには閉店後の為か女性店長一人だけが待ち構えていた。

「お待ちしておりました会長」

「申し訳ないね突然、この子が雨に濡れてびしょ濡れだったんでね、着替えないと風邪をひいてしまうだろ?」

「そう言う事でしたか、うちにはアンダーウエアー等も各種取り揃えておりますのでごゆっくりお選び下さい」

 紗弥加に対しそう言いながらも、この時店長は会長とこのびしょ濡れの少女の関係はなんなのだろうと疑問に思っていた。

 そこへ広瀬が紗弥加に声をかける。

「私は適当に待っているからゆっくりと選ぶと良いよ、これで好きなものを買いなさい」

 そう言っていかにも高そうなブランド物の黒い革財布から、ブラックカードを取り出し紗弥加に渡す広瀬。

(すごいこれがブラックカード? あたし初めて見た。うちのママなんてカード嫌いだから普通のクレジットカードさえも持っていないのに……)

 初めて見るブラックカードにびくびくしてしまう紗弥加。

「はい、ありがとうございます」

 広瀬に礼を言いつつもわざわざ閉店後も店を開けてくれている事からあまりゆっくりしていては申し訳ないと思っている紗弥加。

 その思いもあり紗弥加はてきぱきと好みの服を選んでいく。

 そんな紗弥加のもとに再び広瀬の声が飛んだ。

「あっそうそう、商品が濡れてしまうとかそんなこと考えなくて良いから、しっかり試着してサイズの合うものを買うんだよ」

「はい分かりました」

 一応返事をした紗弥加であったが、それでは申し訳ない気がしていた。

 そんな時店長が奥からタオルを手にやって来た。

「お客様風邪をひいてしまいます。とにかくこれで体を拭いて下さい」

「ありがとうございます」

 タオルを受け取った紗弥加はそのタオルで体を拭くと、その後再び服選びに戻る。

(何だか申し訳ないからあまり高くない方が良いよね、それと取り敢えずサイズが合えばいいかな? 営業時間過ぎているからあまりゆっくりしていると申し訳ないものね)

 ところが選んだ服を持ってフィッティングルームへと入ろうとした時紗弥加は躊躇ためらってしまった。

(どうしよう、店長さんがタオルを持って来て体をふかせてもらったけど完全に水分を拭き取れたわけじゃないしな? このまま着替えたらせっかくの新しい服が濡れてしまう、試着してサイズが合えば少しくらい濡れていても良いんだけどもし合わなかったら売り物を濡らしてしまう事になるじゃない。会長さんはあんなことを言っていたけどやっぱり大事な商品だものね、濡らしてしまったら申し訳ないわ)

 どうしようか困っている紗弥加、そんな紗弥加のもとに店長がやって来た。

「お客様どうされました?」

「いえ、何でもありません」

(仕方ない、大体のサイズは分かるからいつものサイズで良いよね)

 意を決した紗弥加はそのままレジへと向かってしまった。

「お願いします」

 その声に店長が疑問の声を放つ。

「ご試着なさらないでよろしいのですか?」

「はい、だってもし合わなかったらせっかくの売り物が濡れてしまうじゃないですか、無理を言って店を開けて頂いているのにこれ以上迷惑をかけられません」

「良いんですよお客様はそんな事気にしなくて、会長も仰っていたじゃありませんか、しっかりサイズの合うものを買うようにと」

「いいえ構いません、それに自分のサイズはなんとなく分かりますから……」

「そうですか? ならこれ以上何も言いませんが……」

 そう言うと次々とレジを打つ店長。

 その後カードで支払いを済ませた紗弥加は店長に一言断りを入れる。

「あのっ試着室で着替えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ、うちのフィッティングルームは他店より広くとってありますのでゆったりとお着替え出来ると思います。どうぞごゆっくりお着替えなさって下さい」

「ありがとうございます。ではお借りします」

 ひと言礼を言った紗弥加はフィッティングルームへと向かった。

 着替えを始めた紗弥加は新しい服をショップの袋から出し、その中に脱いだ服を入れていく。

 その後着替えを済ませた紗弥加は、フィッティングルームを出ると広瀬の下に向かった。

「お待たせしました会長さん」

「早かったね、気に入ったのがあったかい?」

「はい、すっごく」

「かわいいじゃない、サイズもぴったりみたいだね」

「そうですか? ありがとうございます」

「じゃあ行こうか」

 その後広瀬は店長に挨拶をする。

「今日は閉店後にもかかわらず店を開けてもらって悪かったね、では私達はこれにて失礼するよ、ありがとう」

 広瀬に続き紗弥加も挨拶をすると、店前まで迎えに来た車に乗り込み店を後にした。

 車に乗り込んだ広瀬は胸ポケットからケータイ電話を取り出すと早速坂本医院長に電話をかける。

「もしもし坂本さんですか?」

『はい、お待ちしていました会長』

「今から向いますのでよろしくお願いします」

『分かりました、気を付けてお越しください、ではお待ちしています』

 その後電話を切った広瀬は紗弥加に向き直った。

「そう言えば紗弥加ちゃん」

「はいっ何でしょう」

「親御さんに遅くなる事言っておいた方が良いんじゃない?」

「そうですね、電話してみます」

 その後女の子らしくかわいらしいケースが付いたスマートフォンを取り出すと、おもむろにスマートフォンを操作し電話をかける紗弥加。

「もしもしママ?」

『紗弥加? 何してんのこんな遅くまで、今どこにいるの? 心配するじゃない』

「ごめんなさい、実は車とぶつかりそうになっちゃって、でも大丈夫心配いらないの、その車の人が念のため病院で診てもらった方が良いって言って下さって、それで今向かっているところなの」

『ぶつかりそうになったってそれ事故じゃないの? 大丈夫なの体は』

「大丈夫よぶつかってはいないわ、ほんとに念のため診てもらうだけだから、あたしがいけないのよ信号赤なのに飛び出したりしたから……」

『そうなの? でもあなたも気を付けなさいよ』

「分かったわよ、そう言う事だからもう少し遅くなると思う」

『分かったわ、それよりその人どんな人、知らない人の車なんかに乗って大丈夫なの?』

「大丈夫よちゃんとした人だから、心配ないわ」

『そう? それなら良いけど、とにかく気を付けて帰ってくるのよ、それとその人に良くお礼言っておくのよ』

「分かっているわよ、あたしだってもう高校生よ、きちんとお礼くらい言えるわ、じゃあもう切るね」

 その時となりにいる広瀬がやさしい笑みで声をかけてきた。

「ちょっと代わってくれる?」

 その声に電話を切ろうとする母に慌てて声をかける。

「ちょっと待ってママ、電話代わってほしいって、代わるね」

 言われるがままスマートフォンを広瀬に手渡す紗弥加。

「初めまして、この度はうちの運転手による不手際でこの様な事になってしまい申し訳ありません。お嬢さんは病院で診てもらった後必ず送り届けますのでご安心下さい、では失礼いたします」

 挨拶を終えた広瀬はスマートフォンを紗弥加に返した。

「そう言う事だから心配しないで」

『分かったわ、どうやらちゃんとした人みたいね、何だか紗弥加が変な人に捕まったんじゃないかって、お母さんそっちの方が心配だったのよ』

 この時母親の麗華れいかは電話の向こうから聞こえた男性の声に遠い昔に聞き覚えがあったが、それが広瀬コーポレーションの広瀬会長だとは思いもしなかった……

 その後紗弥加は電話を切るとそこへ広瀬が尋ねてくる。

「電話終わった?」

「はい」

「もうすぐ着くからね」

「分かりました」

「あっそれともちろん病院代はこちらで支払うから心配しないでね」

「ありがとうございます」

 その数分後、広瀬達を乗せた車は坂本病院の玄関前へとゆっくりと滑り込んだ。

 広瀬が紗弥加を連れ夜の坂本病院の玄関へ入るとそこはしんと静まり返っており、そんな中医院長の坂本と数名の看護師だけが待ち受けていた。

「先生お待たせして申し訳ありません」

「いいえとんでもないです会長、会長の頼みとあらば何でもしますよ私どもに出来る事なら、その子ですか? 診てほしいと言うのは」

「そうなんですよ、実は車で接触しかけまして、見た目はかすり傷程度なんだが他に異常がないか調べてほしいんです」

「分かりました。お嬢さんうちの病院に掛かった事はあるかな?」

「いえ初めてです」

「そう、じゃあ後で診察券作ろうね、それと保険証持っている?」

「持っています、常に財布に入れて持ち歩いているので……」

「そうそれは良かった、後で出してね。じゃあ早速検査始めようか? その前に先に傷の手当てをしないとね、お願いしますね」

 坂本医院長が看護師に指示を出すと、その指示に従い一人の看護師が紗弥加に声をかける。

「傷なおしちゃおうね、こっち来てくれる」

 看護師の後に続き処置室まで歩いて行くと、そこで傷の手当てを施す。

 看護師のおねえさんはやさしく手当してくれるが、それでも脱脂綿に含ませた消毒液がしみるため顔をしかめる紗弥加。

「ごめんね、しみる?」

「大丈夫です、この位我慢しないと……」

「なるべくやさしくする様にしているんだけどしみるよねぇ」

「平気ですこの位」

「偉いえらい、もうすぐ終わるからね、はい終わった、もう良いわよ」

「ありがとうございます」

「あとは検査ね、こっちよついて来て」

 その後レントゲンなどの検査を済ませた紗弥加は広瀬と共に待合室で結果を待っていると、そこへ坂本医院長が検査データやレントゲン写真などを手にやって来た。

「先生どうですか結果は……」

 広瀬の問い掛けに応える坂本。

「大丈夫! どこにも異常はありませんよ、私が保証します」

「そうですかこれで安心しました。ありがとうございます」

 広瀬は紗弥加が自分の孫であるかの様に喜んでいた、この時点ではまだ紗弥加が本当に自分の孫であるとは知らないにもかかわらず。

 坂本に対し礼を言う広瀬の隣で紗弥加も礼を言っていた。

「ありがとうございました先生」

 その後会計を済ませた広瀬は紗弥加に声をかける。

「それじゃあ帰ろうか」

「はい」

「本日は本当に突然にもかかわらずありがとうございました」

 そうして紗弥加とともに坂本病院を後にする広瀬。

 その頃にはすでに土砂降りだった雨は上がっており、空を見上げると綺麗な満月が顔をのぞかせていた。


つづく

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