漫才【野球の実況中継】

A「プロ野球の実況中継をラジオで聴いたことある?」
B「ないよ。ラジオじゃなくて、やっぱり野球は、実際に観ないと」
A「あー、生でな」
B「そう、マウンドで観ないと」
A「参加してない?マウンドは無理やから。茶の間か観客席やから」
B「とにかくラジオは雰囲気つたわらへんよ」
A「いや、でも、そこをうまく雰囲気を伝えてくれるのが、実況中継やから」
B「できるけどな、オレ」
A「でけへんよ」
B「できるって」
A「いやいや、プロじゃないと出来へんから」
B「そっかあ。できひんかあ」
A「あきらめんなや!!やってみるねん!普通!ここでやめたら!相方の可能性潰すタイプの、人間になるやろ!オレ!やってみるのが漫才やろ」
B「やる!オレ、小説とかよく読むから、実況中継の人より、多分読んでると思うから、風景とかを思い浮かべさせるのが、得意やねん」
A「そう聞いたら、できないなんて、決めつけてすまなかった」
B「{Aをゆびさして)出たーっ!相方の口から謝罪の言葉が大きな大きな放物線を描いて、わたしの耳に入ったーっ!!ホームラン!!」
A「やりはじめんでええねん!!そんなとこから!でも、ちょっと雰囲気あったけど」
B「だから、お前、タクシー乗って、運転手さんにラジオかけてもらって?」
A「おお、ほんまに見えてない感じなんやな」
B「そう。でも、東京ドームの阪神巨人戦に向かってタクシーは走って観に行ってるねん」
A「すごい臨場感あるやん。ほんまは球場で観るつもりでチケット買ってた人なんやな、オレ」
B「そう。で、試合会場に着くまでの間も試合の展開を知りたいわけよ」
A「分かった。運転手さん、ラジオで阪神巨人戦かけてもらっていいですか?」
B「パチっ!」
A「はじまった」
B「阪神くん、君ほんま鳩胸やね。ふるっふー。あと怒り肩やし。なんじゃーい」
A「それじゃないです。運転手さん。阪神巨人の漫才じゃなくて、阪神巨人戦です」
B「パチっ。さあ、特大のホームランでしたね」
A「ええとこ終わってるやん。今ので!!」
B「さて!バッターボックスには、なんと次の選手が入っております!その表情は、この試合にかける意気込みをあえて、抑え込んだような、静かな闘志がみなぎっているように思えます」
A「うまいよー。いいねー」
B「そして、ネクストバッターズサークルには、打順をオレにまわせとばかりに、素振りをしている次の次の選手がいます」
A「うまいよ。感情表現」
B「一方、ベンチで見守るナインたちの中に、この中の誰かが、その次の選手なのでしょう」
A「選手の名前言えや!!!!さっきから!」
B「いいや!ラジオで無料で聴いてる人には、名前を教えるわけにはいきません」
A「なんやねん、その実況。運転手さん、急いでください」
B「あっとー、ピッチャーが投げた球が大きな放物線を描いて、キャッチャーのミットに吸い込まれていくーっ!」
A「そこ盛り上げへんねん。あんまり。」
B「あっと、それをバッターが打ったー!そして、打ったあとのバットが、放物線を描いて、人のいないところに、落ちたーっ!!安全なところにーっ!」
A「打った球どうなったんか言えよ!」
B「さっきのバッターが、もう全力疾走しなくても、怒られないのさ、と言わんばかりの笑顔で、ダイヤモンドを一周しております」
A「ホームランやったんかー。どっちの攻撃でどっちが何点勝ってるかもわからん!運転手さん、、急いでください」
B「あーっと、『運転手さん!急いでください』というセリフが、大きな大きな放物線を描いて、耳に、入るか、入るか、はいったー!ホームラン!」
A「なんで、タクシーの中の世界も実況してくんねん!どういう世界線になってるねん!試合だけでええねん。ほんで、さっきから放物線好きやな!お前!」
B「あっと、これは、なんでしょうか。何かが、大きな大きな放物線を描いて、これは、試合中止だーっ!」
A「何があったんや、一体!戦争?ミサイルかなんか落とされたんか!運転手さん、急いでください!!球場で何かが!!」
B「選手たちが、放物線を描いて、わたしたちの解説席に、きたーっ!!!これが、本当の別れ、さよならホームランかーっ!!」
A「テロか何かが起こってる!運転手さん、急いでください!!は、、ついた!なんだ、これは。東京ドームだったはずの場所が」
B「放物線を描いて、どこかの国から!何かが飛んできて、わたし一人が生き残ったーっ!!神様ーっ!どうしてわたしだけーっ!!」
A「(Bと見つめ合う)」
B「そして、目が合ってるこの男は、何者だーっ!敵か、はたまた、、味方かーっ!!試合のチケットとったけど、用事があってこれなかったのが、、なんともあやしいーっ!」
A「やめさせてもらうわ!」

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