小説【ドラ・コルレオーネ】
「どらえもーん、ジャイアンがひどいんだ。僕、なんにもしてないのに、むしゃくしゃするからって理由で、急に殴ってきたりするんだー。
ジャイアンを懲らしめたいから、なんか道具だしてよー」
「のび太くん、僕は、君が自立した、しっかりした大人になるために未来から、来たんだよ。なんでも、道具に頼っちゃダメ」
「そんなこと言ったって、ジャイアンが悪いし、ジャイアンはケンカも強いから、会話が通用しないんだよー」
「もう〜。確かに、ジャイアンは悪いけど、それを自分の力で、なんとかできるようにならなくちゃダメだよ」
「そんなこと言ったって、自分のチカラじゃなんにもできないから、ちょっと懲らしめるのをドラえもんのチカラでサポートしてよー。ねえー、ドラえもん大好き〜」
「もうー。調子がいいんだから〜。しょうがないなあー。
パパパパ〜ン!
激痛バースデーケーキ〜♫」
「激痛バースデーケーキ〜?これってどんな道具なの?」
「ジャイアンの誕生日がもうすぐあるだろ?
サプライズで、バースデーパーティーを企画するんだ。
で、ジャイアンにこの激痛バースデーケーキを食べさせるんだ。
そしたら、ジャイアンは、一生、まばたきするたびに全身に激痛が走るカラダになるんだよ。でも、ボクが手伝うのは、ここまでだよ。あとは自分でなんとかするんだよ」
「…そこまでは求めてないよ〜!!」
のび太くんは泣いています。
「もうちょっとライトな道具がいいよ〜。“あとは自分でなんとかするんだよ”っていうセリフは、もっと軽いサポートをしてくれる道具を出した時に言うんだよー。それはもはや、サポートじゃなくて、最終的な処刑だよ〜」
ドラえもんは、ジロリとのび太くんを見ました。
「のび太くん、てことは、アレかい?
出した道具をひっこめろ、と?
オレに、吐いたツバを飲め、と??」
「は、吐いたツバを飲むとか、そんな、大袈裟だなあ。ド、ドラえもんったらあ」
「道具は、出す時は、特に痛みをともなわない。
しかし、ポケットにしまう時には、オレの体に負担をかける。
使ってないのに、しまえと?
頼む時は、ドラえもん大好き?
気に入らなければしまえ?
ジャイアンさえいなければ、世の中は怖いものはないのか?
ん?
オレはどうだ?
オレが怖いか?
ジャイアンとオレと、どっちが怖いんだ?
ん?」
のび太くんの口の中は、もうカラカラです。
「いいか、二度と同じことを言わせるな。
剛田武(ごうだたけし)に、激痛バースデーケーキを食べさせるんだ。
そして、あいつは瞬きをするたびに激痛でもだえ苦しみ、やがて死が訪れる。
その死ぬ瞬間の走馬灯の中に、いい思い出じゃなく、イヤな思い出ばかりを思い出させるために、、、
パパパパン!♫
走馬灯悪夢バームクーヘン〜♫」
「頼んでないよ〜」
もう、のび太くんは泣きじゃくっています。
ドラえもんは、そんなのび太くんの肩を優しくたたきます。
「大丈夫だ。
お前ならできる。
激痛バースデーケーキを食べさせたあと、“走馬灯悪夢バームクーヘン”も食わせろ。
安心しろ。食べてすぐには症状は現れない。
24時間後だ。
つまり、ジャイアンは、自分がいじめていた相手が、サプライズのバースデーパーティーを企画してくれた、という幸せを、丸一日だけ、味わうことができるんだ。
そして、お前がやったこととは、バレない。
どうだ?
ん?」
のび太くんは、震えながら、ドラえもんに聞きました。
「で、でも、バースデーケーキなら、僕とか、みんなも食べなきゃ不自然じゃないの?そしたら、僕も、まばたきをするたびに、激痛が走るようになってしまうんじゃ、、、?」
「hey hey hey、カモーン、のびた〜。
心配するな。
この激痛バースデーケーキは、一口目を食べた人間のみに、魔法がかかり、瞬きをするたびに激痛が走るんだ。
一口目を食べたあとは、ただのケーキだ。
いいな?
誕生日の主役は、ジャイアンだろ?
『主役がまずは、一口目を。どうぞどうぞ』と誘導するんだ。
簡単だろ?
わけない話さ。
いいな?
やれるな?」
のび太くんにドラえもんはバースデーケーキの箱を渡します。
のび太くんは、無言でケーキを受け取りました。
そして、「ジャ、ジャイアンの誕生日パーティーを、き、企画するために、スネ夫と、しずかちゃんの家に行ってきます。が、外出の、きょ、許可をください」と言いました。
ドラえもんは何も言わずにアゴで、ドアの方向を示しました。
のび太くんが部屋を出ると、何もない空間からドラミちゃんが姿を現しました。
「ドラミか。のび太を追え。少しでも変な動きをしたら、殺せ。
ここで言う変な動きというのは、クシャミする時の動きが、人よりちょっと変わってるとか、そんなんじゃなくて、オレを裏切るような行為のことをさす!」
さて、いよいよ、サプライズバースデー当日です。
ジャイアンが、パーティー会場に入ると、会場は真っ暗。
と、そのタイミングで、電気が点灯します。
クラッカーを鳴らす、のび太、しずかちゃん、スネ夫たち。
感動して泣くジャイアン。
「のび太がすべて計画したんだよ」と話すスネ夫の言葉に、ジャイアンがのび太に歩み寄ります。
「心の友よ!」
「のび太、オレはもうお前を決していじめたりしない。むしろ、お前に何かイヤなことをしてくる奴がいたら、オレに必ず言え。
絶対になんとかしてやる。
それが、もし、オレが喧嘩で勝てないような、大人でもだ!!!イヤな奴がいたらオレに名前を言え!」
その言葉を聞いて、ふと、のび太の頭の中に、青いバケモノが浮かびましたが、その名前を出す恐ろしさを考えると、到底その名前を出すことなど、出来ないのでした。
のび太たちは、ハッピーバースデーの歌をうたいます。
ハッピーバースデー、トゥーユー、ハッピーバースデー、トゥーユー、ハッピーバースデーディア
ジャイアーン♫
ジャイアンは目に涙をためながら、ろうそくの炎を吹き消します。
その間にケーキを切り分けるしずかちゃん。
ジャイアンは、ジャイアンおめでとうというデコレーションが入ったチョコレートの部分が載ったケーキをしずかちゃんから、受け取ります。
のび太くんの心臓はバックバクです。
「きょ、今日の主役はジャイアンなんだから、まずは、ジャイアンから、ケーキを食べてよ!」
ジャイアンは、のび太をニコニコしながら見つめます。
「のび太。オレは、もうみんなの気持ちだけで、お腹いっぱいだ!
それに、さっき、二郎系ラーメンをさっき食べてきたところなんだ!!
どうだ?みんな!
ここは、ひとつ、このサプライズの企画をしてくれたのび太に、一口目を食べてもらおうじゃねえか?」
サプライズが裏目に出ました。
のび太くんは、気絶しそうです。
そこから先の記憶は、のび太くんの中で、おぼろげです。
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