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『彼女の色に届くまで』

【 ネタバラシはありません 】

『彼女の色に届くまで』

著者:似鳥鶏
出版社:角川書店
発行年:2017年3月29日


(内容紹介)
 画商の息子で幼い頃から画家を目指している緑川礼(僕)は、期待外れな高校生活を送っていた。友人は筋肉マニアの変わり者一人。美術展の公募にも落選続きで、画家としての一歩も踏み出せず、冴えない毎日だった。だが高校生活も半ばを過ぎた頃、僕は学校の絵画損壊事件の犯人にされそうになる。その窮地を救ってくれたのは、無口で謎めいた同学年の美少女、千坂桜だった。千坂は有名絵画をヒントに事件の真相を解き明かし、それから僕の日々は一変する。僕は高校・芸大・社会人と、天才的な美術センスを持つ千坂と共に、絵画にまつわる事件に巻き込まれていくことになり……。


 ミステリとしても、青春小説としても楽しく読めました。両者がうまく入り交じった良作だと思います。本書は、「雨の日、光の帝国で」「極彩色を越えて」「持たざる密室」「嘘の真実と真実の嘘」「そして君になる」の5編が収録されている短編集……ではなく長編ではないかと。ミステリとしておもしろく読んでいる反面、何者かになりたいとあがいたり諦めたり奮起したりする「僕」が私自身と重なる部分もあり、途中しんどくなってしまいました。久しぶりの感情移入です。また、巻末に各話のキーとなる絵画がカラーで掲載されていて、久しぶりに美術館に行きたいなとも思いました。最後に行ったのは、確か国立西洋美術館で開催された「国立西洋美術館リニューアルオープン記念 自然と人のダイアローグ フリードリヒ、モネ、ゴッホからリヒターまで」です。2022年6月から9月までやっていた企画展です。懐かしい。
 本書で著者が仕掛けた大きな企みに直面するとき、こいつはすごいと脱帽してしまいました。もちろんどのお話もトリックスターたる著者のすごさが再認識できますが……。おすすめです。

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