見出し画像

「真珠のようなひと」高峰秀子のことばと暮らし

ポスターの写真は大竹省仁さんの撮影

銀座のミキモトホールで開催中の「真珠のようなひと 女優・高峰秀子のことばと暮らし」展に行ってきました。素晴らしかったので、ご興味ある方に届くといいなと思いつつ、感想をメモします。

【場所】ミキモトホールはこちら 和光のとなり、銀座三越の向かいのビルです。クリスマスツリーで有名なあそこの7階にありますよ。

今年は生誕100年にあたるんですね

高峰秀子さんは戦前から子役として活動し、戦後の映画界で名優として、また大スターとして名を馳せた伝説的な存在のひと。
名エッセイストとしても知られていますが、中でも自伝『わたしの渡世日記』には圧倒されました。内容の濃さ、絞りこまれた表現とニヒリズム、彼女しか書けない文体がしかとあるんですね。そのオリジナリティ。どこか突き放した目線と冷静さと無常観のようなものが強く感じられつつ、根底には慈念のようなきれいな心と、てらいのない気持ちがある。

今回の収穫はまず、梅原龍三郎による高峰秀子肖像画を観られたことでした。実際間近にすると眼が強いんですよ。キャプションにも梅原のコメントとして「彼女は目が大きいのではなく、目の光が強いので大きく見える」的なことが書かれているんですが、その光をなんとか活写しようと梅原が挑んだかのような筆づかいで、迫力があって。

ふたりは親交が深く、梅原が彼女に贈ったバラの絵も場内にあります。上の写真は対談集『いっぴきの虫』、中に梅原氏との対談がありますよ。梅原は留学中にニジンスキーを観た、なんて話もサラッと出てきます。とても面白い対談集なので、おすすめ。私が持っているのは古いハードカバーのものですが、たしか文庫で復刊されているはず。

場内には彼女が日常で愛した小物や家具が展示されています。言っておきますが、数は少ないです。スモールギャラリー程度の広さと思ってください。それでも観る価値あり。

高峰秀子さんは趣味のよいひととして有名でした。
実際に『ピッコロモンド』という古美術店(小道具商?)のオーナー兼主人でもあり、各地の蚤の市などで集めた品々に囲まれて過ごされていたよう。

手のモチーフの置物が好きだったようで、いくつか展示されています。写真は秀子さんの本『いいもの見つけた』から。あと印象に残ったのが花入れにされていたピッチャー、ナポレモンの顔をかたどった指輪(夫・松山善三氏に贈ったもの)、時計、ペアのマグ、眼鏡入れにしていたというグラスと小さな灰皿、椅子、帽子(小さい!)や手袋、大事にされていたという真珠のアクセサリー。

秀子さん、ミキモトの顧客だったんでしょうね。パネルに真珠に関する素敵なエピソードも紹介されています。どうか読み逃さないでほしい。写真の数々から、彼女のすぐれたファッションセンスも感じられると思います。

これが見られて嬉しかった、田中絹代から贈られたという櫛と笄(こうがい)、ヘアアクセですな。笄はとんぼ玉ですかね、素敵だった。櫛の細工は巧緻を極めたそれは見事なものでしたよ。日本映画界を代表するふたりのレジェンドスターが触れた櫛と思うと、なんだか宝物感もひとしおです。

パリの蚤の市で見つけたという花の細工がなされた小さな額ふたつには、藤田嗣治が描いた絵が飾られていました。秀子さんと夫の善三さんを子どもに見立てて描かれていて、これがなんとも小粋でね。「イニシャルも入れたよ」的なメッセージが微笑ましくて。

麻布にあったというお宅、どんなだったんだろうなあ。食器とか拝見してみたかった。場内にはキッチンで料理している秀子さんの写真も飾られていました。

いやはや、しかしおそるべき審美眼。
5月12日まで、なんと入場無料! ミキモトさんの太っ腹に感謝です。好評だったらもっと規模を大きくしてまたどこかで展示されるかもしれない。もっと彼女が集めた、愛用した品々を観たい。話題になるといいな、と思っています。

生誕100年ということで、お隣の教文館書店でも秀子さんフェアやっていますよ。素敵なパネルが見られます。裏手には秀子さんがよく行かれていたという洋食店も健在。以前に取材したとき、ご店主から「これ、高峰さんにいただいた鉛筆削りなんですよ」というお話をうかがったことも。
あ、そうそう。秀子さんの直筆原稿を見られたのもよかった! 独特の魅力的な字を書かれるひとでした。安野光雅さんのことを書いたエッセイで、これは何の単行本に入っていたんだっけなあ……。


最後にちょっと宣伝。新刊『台所をひらく』、よろしくお願いします

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?