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花道と流川と友人F

この前友達の家に泊まっていたら、高校の友人Fから電話がかかってきた。
泊まっていた子もFのことは知っていたので、面白がって出てみる。

「いやほんまにさあ、花道と流川はセックスせえへんねん!!」

出たことを一瞬で後悔した。

「な、あんた酔って…」
「おっかしいやん!!?セックスせえへんねん!!」

花道と流川はいわずもがなスラムダンクの主要キャラである。
そして友人Fは映画『THE FIRST SLAMDUNK』をきっかけにスラムダンクに人生を狂わされている女の一人だ。
どのくらい狂わされてるかを少し話す。
まず、春休みに映画を見たFは衝撃を受け、あまりにスラムダンクに夢中になった。そして休みが終わって大学が始まっていることにしばらく気付かず、数多くの単位を一斉に落とした。
そしてTwitterには毎日現れるくせにLINEは全く開かなかった。しびれを切らしたのか優しい彼氏から「俺のこと覚えてる?」と控えめな連絡が来た。そんなもん彼氏に言わすな。さすがにFも不憫に思ったらしいがそれでも「私はスラムダンクがある限りI(彼氏)のことは忘れ続ける」と言って数年ぶりに復縁した彼氏とあっさりと別れた。
他にも映画館に行ったらいつの間にかスラムダンクを見ているので他の映画が見れなくなったり、突然湘南に行ったり、なんか色々大変そうである。

そしてこの日も、ただ花道と流川がセックスしている絵を見て発狂し電話をかけてきたわけではなかった。
どうやら焼肉屋バイトの飲み会の帰りだったらしい。そこで話題がリアルな恋愛・下ネタに発展し、べろべろになり、なんとなくお持ち帰りされそうになったとか。
しかしすんでのところでとどまり、「いや、でもこの年だしもうそろそろ経験してもいいんじゃないか。いつまで私はスラムダンクの沼でズブズブしてるんだ。こんなキモオタのままでいいのか。私はなんなのか。」みたいな葛藤をセックスする流川と花道に重ねて誰かに話したかったらしい。

「私は自分がこんなマイノリティ側になると思わんかったア!!」

電話の向こうでなんか言っている。友人Fは中学の頃からとても変だったし卒業式が終わったあとのカラオケに卒業証書を忘れるような人間だった。何を今更と思ったがスラムダンクの界隈でやっと社会と自分のズレを感じたのだろうか。

そして筋骨隆々に慣れてしまったFは映画ハイキューのポスターを見て「研磨ガリガリすぎてアフリカの子供かおもたわア!!」などと各方面に大変失礼なことを路上で叫び、うるさかったので私はそっと電話を切った。
スラムダンクに関しては好きすぎて腐女子にもなりきれず、界隈から追い出され、しかし現実世界では年相応の社会に溶け込めないオタクと自認してるのだ。
友だちは
「生きづらそうな人だね」
と言ってスマホから目を離さず寝返りを打った。
私も明日もバイトなので安らかに眠った。



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