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その土器ください

「その土器を私にください」
もらえないのはわかってる。けどこうも言いたくなる。
岐阜県土岐市でそんな土器を見た。

私はやきものが好きで、なかでもアジア全域の古い器が好きだ。こんなざっくりしたカテゴライズだったら縄文土器も好みに入ってもいいはずなんだけど、縄文土器に他のやきものに見ているような美しさを見ることは少ない。理由はふたつあって、ひとつは縄文土器から拾える情報が多くなりつつあることで、もうひとつは単純に好みの土器が少ないのかなと思っている。

先週行ってきた土岐市美濃陶磁歴史館の企画展”東美濃の縄文土器-東と西の文化が出会う場所-”で、めちゃくちゃ好みの土器を見つけてしまった。 もともとツイッターで画像を見た時から一目ぼれしてたんだけど、実物はもっともっと魅力的だった。


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一目ぼれした土器
胴部の芳醇な丸みとぽってりとした8の字穴のふくらみ


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手でちぎったようなみずみずしい口縁部


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ケからハレへと立ち上るグラデーション


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狩人の手のひらみたいな胴部の質感
この土器を眺めていると胡散くさい表現がいくらでも湧いてくる。

土岐市と言えば美濃焼の生産地で、この施設で縄文の企画展をするのはかなり珍しいことらしい。織部や志野の良品をさし置いて縄文の展示をするのはやっぱり難しいようだ。

この日は他に岐阜市歴史博物館にも回った。東から西から北から。様々な地方から流れ込んだ土器形式が岐阜に溜まって作られた、岐阜独特のおもしろい土器が沢山あって時間を忘れてしまった。

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岐阜県は色んな土器形式を包みこむ大きなサニーレタス。

土岐市美濃陶磁歴史館と岐阜市歴史博物館。この二つの施設で感じたのは、縄文ブームだといわれた去年の夏は確実に今に繋がっているということ。学芸員の方はいつだって縄文を盛り上げようとしてくれている(はず)。縄文のイチファンである私は、この流れのまま全国の博物館や資料館で面白い縄文の企画展が増えればいいなと思っている。

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岐阜市歴史博物館の企画展のあいさつ文。

私のめちゃめちゃ好みの土器は土岐市ではなく、近くの中津川市のものだった。ただ中津川市には展示施設がないとのことで、この土器は企画展が終わったら次の予定のないまま倉庫に仕舞われてしまう。秘仏だって数年や数十年に一度は御開帳してもらえるというのに。

今の私にとってあの土器は秘仏みたいに尊い存在だから、いつの日か縄文がめちゃ盛り上がって中津川市にも施設ができて、いつでも見られることができるようになればいいな。もしくは世界が荒廃して縄文というか文化が低く見られて、土器など遺物の廃棄が決定されてしまったら、一番に貰い受けにいきたい。その時はどうか、その土器を私にください。

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