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トーハクにあった! 松花堂昭乗の家……の立体絵図面

東京国立博物館(トーハク)には、現在、江戸時代に作られたという立体絵図面…起こし絵《八幡山瀧本坊茶立所座敷共建地割》が展示されています。模型が好きなわたしは「おぉ〜」と感嘆したわけですが、その詳細をnoteしておきたいと思います。

《八幡山瀧本坊茶立所座敷共建地割》というタイトルを簡単に言えば、石清水八幡宮のある男山に住んでいた松花堂しょうかどう昭乗しょうじょうの瀧本坊の茶立所の座敷などの見取り図……という感じでしょう。ぜんぜん簡単ではないですね。まぁとにかく、松花堂昭乗が住んでいた建物を立体絵図面にしたということです。※専門家からすれば、「地割」と「起こし絵」、「地割」や「見取り図」は、それぞれ異なるものかもしれません。解説パネルによれば、起こし絵図とは「建物を詳細に測量し立体的に再現したもの」としています。

《八幡山瀧本坊茶立所座敷共建地割》

松花堂しょうかどう昭乗しょうじょうさんは、寛政の三筆として有名な方。トーハクには関連品がいくつかあり、これまでも何度かnoteしてきました。

改めて彼の生涯を振り返ると、中沼辰之助さんというのが、幼い頃の本名……俗名です。天正12(1584)年に奈良または堺に生まれたとされ、少年の頃に、同じく寛政の三筆と呼ばれる近衛信尹のぶただに仕えました。そして17歳のときに石清水八幡宮の社士である松田秀知の猶子として、男山に登って出家。初めは鐘楼坊というところに……のちに師匠の実乗の元で修行をしながら瀧本坊に住みました。

ちょうど宇治川が名前を変えて淀川となるあたりの、南側にある丘が石清水八幡宮のある男山……または八幡山

知らなかったのですが、その後の松花堂しょうかどう昭乗しょうじょうさんは、真言密教の両部灌頂を受けて阿闍梨にまで昇り詰めていたんですね(とにかく、真言宗…瑜伽宗の中ではとても偉い僧だったということ)。そして44歳で瀧本坊の住職となります。

今回の《八幡山瀧本坊茶立所座敷共建地割》の建物を建てたのは、この頃なのでしょうか。茶人で大名だった、小堀遠州(政一)が建てたと伝わっているそう。

10年後の54歳のときには、住職を甥の乗淳に譲り、自らは近くの泉坊境内に建てた「松花堂」に隠棲します。この54歳の頃から松花堂しょうかどう昭乗しょうじょうさんと呼ばれたのか、名乗るようになったのでしょう。(以上は、石清水八幡宮の公式サイトを参照しながら書いています)

おおむね右側が北
14番が少年時代から過ごした「瀧本坊」
15番が引退してから住んだ「泉坊」と、その中に構えた「松花堂」
「松花堂昭乗自画像写」(部分)(松花堂美術館蔵)
トーハクには展示されていません

改めて、現在トーハクに展示されているのは、瀧本坊のほうです。解説パネルにあるとおり「紙の側面に爪をもうけ、それを切込みに差し込んで組み立てています」。

こういう「起こし絵」は、建物を建てる時に大工さんが作る模型が残ったものなんだろうなぁ……と思っていたのですが、Wikipediaによれば「作成理由は様々であるが所有者から発注され建築後の説明のために求められることが多かった」ようです。

そしてトーハクには、50前後の起し絵図が収蔵されているそうで、もちろん、不定期に、それらの起し絵図が展示されているようです。例えば2005年の9月から10月には、15個の起し絵図が展示されています。

その中には《八幡泉坊松花堂起絵図》……つまりこれは松花堂昭乗さんが住んでいた当時のものではない可能性が高いですが、とにかく泉坊の松花堂の起し絵図もあります。そのほか《数寄屋建地割城州八幡山滝本坊有之》というのもあるようで……そんなふうに起し絵図について考えていると、「そういえば、サントリー美術館の『織田有楽斎』展にも、トーハクの起し絵図が展示されていなかったっけ?」なんて思い出しました。

また、これらの起し絵図がズラリと並ぶ(総合文化展で見られる)特集などを企画してもらいたいなぁ……とも思いますが、この起し絵図は、普段はぺしゃんこになって収蔵されていると思うんですよね。そして展示の時には、起こして組み立てる。そうなると、展示の準備にかなりの労力が掛かりそうですし、展示するたびに、確実に損傷していくでしょうからね……なかなかむずかしそうですね。

ということで、今後もこの「起し絵図」について、追っていきたいと思います。

<参照サイト>

大工頭中井家伝来「茶室起こし絵図」の建築史的研究と展示公開(谷 直樹・大阪市立大学名誉教授)

↓ 聚楽 : 東洋建築庭園画集 第4期 解説[7]

https://www.city.yawata.kyoto.jp/cmsfiles/contents/0000007/7241/48bo.pdf


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