見出し画像

「墨刻(ぼっこく)」というアートパフォーマンスを観てきました

遠くない場所に、(鎌倉のとは異なる)「本覚寺」という日蓮宗のお寺があります。以前は毎日、自転車で寺の前の道を通っていたのですが、本堂からはよく読経が聞こえてくるお寺でもありました。そして境内から道路に大きな桜の枝が盛大に飛び出していて、桜が散る季節には、あたり一面がピンク色に染まるんです。

本覚寺を横から見たところ
正面から見たところです
今年も桜が素晴らしいです

そんな桜が満開に近かったこの週末の夕方に、その「日限祖師 本覚寺」へ行ってきました。目的は満開の桜ではなく「墨刻(ぼっこく)」という、アートパフォーマンスを観るためです。

「墨刻」ってなんだろう? って思いますよね。わたしもなんだか分からず、特段の興味があるわけでもありませんでした。ただ、昨年の桜が満開だった時季に、その時は桜を見に本覚寺へ行ったんです。その時に、本堂……とは違うような気もしますが、大きなお堂で「墨刻」の展示会が開催されていたんです。その時に、書道を趣味にしている妻が興味を示し、今年はパフォーマンスを見に行ってみた次第です。

「墨刻」の会場となったお堂

会場内は押すな押すなの大盛況です。入り口から入ると、ちょうど前半のパフォーマンスが終わった後だったため、中から人が出て行きます。するりと堂内に体を滑り込ませると、先に来ていた妻と、こちらに手をふる息子が見えました。そのまま近づけないままパフォーマンスの第二部が開始します。

6畳分くらいありそうな大きな半紙に、墨師(?)たちが、通常よりも2〜3倍は太い筆を持って、何やら書いています。どんなものかは知っていたので……正面にも作品が飾ってありますしね……ほほぅこうやって書くのか……などと思いながら見ていました。この第二部では、一人が書くのではなく、5〜6名が交代しながら一枚の紙に何やらを描いていくという趣向です。

メンバー紹介などもあり、本覚寺の住職さんもメンバーの一人だということ。住職が先生なのかと思いましたが、違いました。何度か本堂で読経する後ろ姿を拝見したことがありましたが、正面から見るのは初めてです。なんとなく厳しそうな人を想像していましたが、柔和な顔をされています。

メンバーの皆さん、総じて柔和な表情をされていました。自身の番が周ってくると、片手には太い筆を、もう一方には墨の入った鍋を持って、一礼してから半紙の上に歩を進ませます。

そして筆を墨汁によくなじませてから、筆を構えてまさに紙に向かうと、皆さん同様に表情がカッとなって、目の色が変わっていました。次の瞬間に、紙を叩くようにバン! と筆を入れます。そしてグワッ! と筆を走らせて、その後は柔らかい筆使いで、にょろにょろと何かを描いていきました。

会場に集まった観衆も、その墨師(?)の緊張と緩和に合わせて、ジッと見入ったり、リラックスしたりを繰り返しています。そして時折は、「おぉ〜」などと一斉に唸り声が挙がり、それぞれが終わると拍手が起こりました。

なんとも不思議な雰囲気でした。

第三部では、主宰者の原賢翏(はらけんりょう)さんが、ヒーリング音楽が奏でられる中で、ソロで筆をとりました。さらに正面から照明を入れて、幻想的な雰囲気……。

でも実は……そういう演出をされると、とたんに頭の中が理解不能になってしまうんですよね……。もうこの「墨刻」だけでも理解しようと思っているところに、音楽が奏でられるわけで……それぞれはステキなものだと思うのですが、わたしの頭の中ではキレイに融合してくれません。でも、すばらしいものでした。

ちなみに、何を書いているのかと言えば、殷や周……秦の時代まで使われていた古代の漢字……甲骨文字や金文、篆書とも言われる古代文字。この原賢翏(はらけんりょう)さんが、どの時代の文字を記したのか分かりませんが、記憶によれば左上から右回りに「玄武・青龍・朱雀・白虎」を書いたと言っていました。それぞれ北・東・南・西を守護する神獣ですね。

右:沖放崖『神通之力』
左:雷洞 Pajek『夢』

堂内には多くの作品が展示されていましたが、混んでいたため、全体を観られたのは、上の写真の2作品だけでした。

原賢翏(はらけんりょう)『虹』

上の「虹」という文字は、「雌雄の龍の胴体が繋がっている形」なのだそうです。そうきくと、ちょっとかっこいい感じがします。

原賢翏(はらけんりょう)『雷雨』

上の『雷雨』という作品ですが、作品名の「雷」という文字は、正確には雨冠に田が三つです。作品の、島津氏の家紋「丸に十」のようなものが「車輪」を表していて、「雷」なのだそうです。下部に点々々々とあるのが「雨」のようです。

第三部が終わった時には、妻も息子も居ませんでした。第二部の途中で息子が耐えきれなくなり、学童へ連れていき、妻は会場に戻ってきたのですが、第三部が終わる前にまた学童へ迎えに行っていました。わたしは、会場の奥の方まで入りこんでしまい、出られず……そのままパフォーマンスを堪能しました。

お堂を出ると、もう日が暮れていました。この本覚寺には、境内にも立派な桜の木があって、とてもきれいなんですよね。

「墨刻(ぼっこく)」の作品は、4月2日まで展示されているそうです。次に晴天になれば、思いっきり桜の花びらが散っていくことでしょう。そんな日に、散歩がてらに立ち寄ってみると、とてもきれいな光景が見られると思います。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?