Blue point of view 1

 俺は何も見ない。見るとすべてが嫌になってしまうから。少ない街灯の光に照らされながら、俺は歩いている。どこに行く訳でもなく、ただただ夜の道を彷徨っている。
「俺は探さなくちゃ行けない。まだやりたいことがある。そのためにあれを探さないと……」
自分に言い聞かせるように俺はつぶやいた。今日もできるだけ多くの場所を歩いて、あれを探した。俺がいつもあの時のことを思い出すと現れるあのチカチカした星を。あれを見つければ、もしかしたらこの状況を変えるきっかけになるかもしれない。もうこんなことしていられないんだ。なぜだかわからないけど、あの星には不思議な力がある気がするんだ。それにあの星を、前にもどこかで見たことがあるような気がする。いつだってあの時のことを思い出すのは、あの星がちらつく時だ。だからあの星さえなんとかすれば、きっとこの狂った歯車はもとの場所に戻るんだ。年季の入った寂れたマンションのエントランスを通って、俺はマンションの一室へと帰っていく。ここにいられるのもあと少しだ。たぶん来月の家賃はもう払えない。退職前に貯金していた金は、いつの間にかもうほとんどなくなってしまった。部屋に無造作に散らかったコンビニ弁当の空が、ずっと前からそこにあったオブジェのように部屋に息づいている。それはからっぽな祈りみたいに、俺の周りを埋め尽くしていく。唯一空いているスペースに横たわり、目を閉じる。まぶたの裏で、あるはずのないあの嫌な星がやけに鮮やかに点滅して、あの日が蘇ってくる。病院の湿ったような気だるい雰囲気。絶望的に長かった待ち時間。もう命のぬけた遺体を見た時のあの虚しさ。空で星が、狂ったように輝いていたこと。公園のベンチですすりなく俺に、野良猫がすりよってきて小さく鳴いたこと。はじめてあの憎たらしい星が、ちらつきはじめたときのこと。それから仕事をやめて、あの星を探すようになったこと……

 薄汚れた朝の陽射しは、散らかった部屋に呪いをかけるように部屋中を撫でていく。俺は立ち上がり、必要なものだけ持ってまたあの星を探しに行くことにした。台所からとってきた果物ナイフを腰に差して、今日はいつも行かない場所を探してみることにした。
「きっと全部うまくいく。きっと……」
そうつぶやいて、俺はマンションを後にした。もう戻ってくるつもりはなかった。財布と携帯だけを持って、鍵はかけずに部屋に置いていった。部屋を出るとき鈍い音がして、誰かの祈りがまたひとつ消えたような気がした。外に出ると空は明るく、陽射しはすべてをぐちゃぐちゃにした。

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