White point of view 7

 いつからだろう。この世界に対してあきらめ始めたのは…… わたしは少しだけ敏感なだけだと最初は思っていた。でもそれは、もっとめんどくさくてつらいことだった。見えない何かにいつも怯えていたわたしは、目まぐるしく過ぎる日々を過ごすだけでやっとだった。絶え間なく降り注いでくるありとあらゆる刺激は、わたしの心を傷だらけにしていった。わけもなく突然心がざわつき出したり、なぜか泣いていたり…… きっとそんなことわかる人にしかわからないのだ。そんなことしていたら、世間から見たら甘えていると解釈されてしまうだろうし、きっと何も見えない人々にとっては、本当にそう見えるのだと思う。だからある時からわたしは、周りのみんなに何も言わなくなった。何も言わないでも、この激流の中を生きるわたしに気づいてくれる人だけを、見つめて生きることにしていた。そんな人めったに現れないこともわかっていたし、もしかしたら一生現れないかもしれないんじゃないかって思っていた。でも、緑くんみたいな人もいた。女の子関係は確かにダメダメかもしれないけれど、いつも必死に戦っているそんなわたしに気づいてくれる緑くんは、わたしにとっては、この世界に唯一残った最後の砦なのかもしれない。このとてつもなく生きづらい社会で、息苦しくて今にも窒息しそうになっているそんなわたしに、酸素ボンベのありかを教えてくれるのも緑くんかもしれない。水が合わなくて血を吐きながら泳ぎまわるわたしに、そっと鎮静剤を打ってくれるのも緑くんかもしれない。だからわたしは、緑くんの側にいたいんだ。体にイバラのようにまとわりつくいびつな星たちを振りほどいてくれる、そんな緑くんがわたしにはとても大切なのだ。この世界を生きていくための要のようなものなのだ。緑くんと出会ってから、おかげさまで少しずつあの星の量が減っていっている。昔はいっぱい集まって、砂浜のヒトデみたいにわたしの体からぶら下がっていたのに…… 今は、あちこちでチカチカしているくらいだ。これならまだ堪えられる。わたしは今、部屋にあるアップライトピアノを奏でてこの世界を拒絶していると同時に、触れ合っている。そうしてわたしは不思議なバランス感覚を身につけて、この世界を必死にサバイブしていくしかないのだから。コンクールはもう来週に迫っていた。緑くんと出会う前は、ピアノだけがわたしの全てを受け止めてくれた。だからせめてピアノに恩返しをしないといけない。わたしはここ何日もピアノに向かい続けている。できるだけ多くの削った魂をピアノに注いで、一つになるために。一つになろうとすればするほど、甘くて切ない音を奏でられるようになる。わたしは壊れた人形のように、ひたすらショパンの『革命のエチュード』を引き続ける。できるだけわたしを痛めつけて、生と死の境目がわからなくなるところまで到達するため。そしてそこでむき出しになった感情たちを、ピアノと一つにリンクするために…… それに、緑くんにも聞いてほしかった。むき出しの世界の音を。むき出しの世界の鼓動を。むき出しの世界の叫び声を。

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