Green point of view 6

 ひたむきさはやっぱり苦手だ。何だか今まで自分が避けてきたものを、突きつけられるような気がする。本当は何か欠けてしまっているのも、何となく気づいていた。そしてそのいびつな穴は、無我夢中で必死になって向き合わないと埋まらないんだということも、何となく気づいていた。でもそれにはものすごいエネルギーがいるし、全力で生きる覚悟が必要だ。おまけにそれでも穴を埋められなかった時には、きっと二度と立ち上がれないくらいボロボロになってしまうだろう。そしてその絶望は心に深く染み付いてしまい、きっと一生付きまとってくる。そんなの俺は嫌だ。だから俺は、何となくその穴の恐怖と不安をかき乱す。俺には、そこらへんに落ちているあり合わせの愛でその穴をデコレーションすることなんて、お安い御用だ。親指一本で女の子たちだって呼べる。それにいくらいびつな穴だって、インスタントな愛でおしゃれに飾ってしまえば、そんな怖いものではないかもしれない。でも時々ものすごく虚しくなるんだ。そのデコレーションの残骸が、俺の心の穴にたまって鳴き声をあげているのかもしれない。
 誰もいない食堂でひとりぼんやりとお茶を飲んでいると、本当に心が深い思考の中で溺れてしまう。色づいた木の葉が、ガラスの向こうでヒラヒラと舞っている。
「緑くん? あれひとり?」
見上げると音羽がいた。
「ああ。うん。そうだね。今日はひとり…… はは」
「めずらしいねー。いつも誰か女の子といるイメージだった! 勇人くんとかも一緒じゃないの?」
「うん。あいつ今日は大学来ないって言ってたよ」
「そっか。また騒ぎたかったんだけどな。あっ緑くん真白とはどう?」
「うん。真白ちゃんかわいいし、優しいし、何よりなんかセンスあるよね」
「センス? ああ真白っていろいろ敏感だもんね。あの子はいろいろ見えすぎてるのかな」
「俺は、その壊れそうなくらいセンシティブな真白ちゃんが好きだな。ふふ」
「そっか! わたしの大切な友達、大切にしてあげてよね!」
「ああ。もちろん!」
「じゃあわたし次の授業B棟の方だからもう行くね! じゃあね緑くん!」
俺はひらひらと手を振って、笑顔で音羽を見送った。口ではあんなこと言っているけれど、俺は本当に女の子を大切にしてあげたことあるのかな。きっと今日はこのまま思考のうねりに絡みとられて、ずっとここから動けないような気がしてきた。今日は穴を埋めるために、女の子にメールを返す気分にもなれない。
「ごめん……」
そうつぶやいて、俺はこの生ぬるい空気の食堂を立ち去った。色鮮やかな落ち葉のシャワーを浴びながら、俺はまっすぐな朱里の生き方を思い出した。真白の優しく揺らめく瞳も、俺の心を通りすぎた。叫び声と祈りが混じりあって、俺をどこかへと追い立てた。

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