Yellow point of view 1

【これは愛に飢えて、もがいて、あがいて、叫び、戦った者たちの物語。これは、愛を吐き出してしまう迷える者の物語。あつくつめたく、くらくあかるい】


 ぼくは目を開けた。真っ赤なめまいをふりほどいて、ぼくは人ごみに戻った。点滅する青信号の中、ぼくはなんとか横断歩道を渡って、とろけそうなネオンの光の中に飛びこんだ。人がふりまいていく残酷なあまい匂いが、そこら中に満ちたりている。ぼくはこっそり微笑んで、薄汚れた水色のビルを目指してゆっくりと歩いていく。透明な1月の寒さがぼくを包みこんで、ぼくは少しだけあの時のことを思い出していた。あの手のぬくもり。あのやさしい声。あのこぼれそうな笑顔。そしてあのチェックのマフラー。1階の飲食店のにぎやかな景色を見ながら、ぼくは非常階段でビルの屋上を目指していた。澄み切った空気が、ぼくを少しずつ強くしていく。古びた屋上の鍵をいいかげんに開けて、何か限りなく薄い膜を突き破るように屋上に出ると、そこにはやっぱりあいつがいた。まるで子供がクレヨンで落書きしたような星が、ゆらゆらと屋上に漂っていた。黄色と赤のサイケデリックな光を放つその星は、なまぬるい熱をふりまきながらこの世界にしがみついていた。
「やっぱりここだったんだ」
ぼくはそうつぶやくと、青詩くんがくれた拳銃を取り出して星に向けてかざした。残酷なほどきれいなその星を、ぼくは涙をこらえて睨みつけた。星は不思議な手の形をした触手をのばして、ゆっくりとぼくに触れようとする。
「触らないで!」
ぼくは白と黒に変色した触手をはねのけて、トリガーに置いた手に力を込める。ぼくは堪えきれずに涙を流して、小さく震えていた。ぼくの落とした涙はきっと赤くなって、この世界を這いずり回っていくんだろう。
「スイッチを見つけたんだ。青詩くんのためにもぼくがやらないと……」
ぼくは自分を勇気づけるように声を上げると、トリガーを引いた。拳銃の弾は落書きの星を貫いた。その瞬間ありとあらゆる色が世界に飛び散って、物は形を失った。歯車が回るようなカタカタという音がして、すべてははじまりに帰っていった。幾千もの色と線と形をくぐりぬけて、ぼくはどこか遠くへと駆け抜けていた。最後に、誰かがこっそりと微笑んだような気がして振り返ると、黄色い水に呑み込まれて、どこか知らない場所に打ち上げられた。

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