「地下道の少女」の感想

アンデシュ・ルースルンド とベリエ・ヘルストレム の共作による「地下道の少女」を読んだので、感想を書いておこうと思う。


今作は、今までの彼らの作品と同じように、スウェーデンの社会的な問題とエンターテイメントを組み合わせた作品となっている。

今回はストリートチルドレンという社会問題に焦点が当てられてる。ストリートチルドレンそのものも社会的な問題だが、彼らの存在そのものを認めようとしないスウェーデン政府や、彼らへの対応を民間企業へ丸投げしてしまう自由主義的な経済システムにも、批判の目が向けられている。

やはり上記の社会問題に触れつつレビューを書くべきなのだろう。

が、自分はあえてそういった社会問題には触れずに感想を書いて行こうと思う。そういうレビューはすでにたくさんありそうだし、わざわざ自分がやる必要もないだろう。作者はガチギレするかもしれないが、この記事では「地下道の少女」がエンタメやミステリとしてどうなのかという点のみを論じようと思う。すまんな。


はじめから結論を言っておく。個人的にはこの地下道の少女はいまいちだった。他のルースルンド作品に比べて明らかに見劣りする。

今作を読もうと思ったきっかけは、最初に起きる事件の面白さだった。

バスに乗せられた外国人の子ども43人が、ストックホルムの警察本部付近で置き去りにされるというなかなか目を引く事件が起きるのである。どうだろうか。犯人や動機が非常に気になる、そんな事件ではないだろうか。

で、そういった謎がどう明かされるかというと……なんか、普通に明かされてしまうのだ。ネタバレ抜きでどういえばいいのだろう? なんというか、「へえ、そうだったのか。豆知識がいくつか増えたぜ」的な解決なのである。つまり手掛かりとか伏線があってそこからどんでん返しみたいなのは全然ないんですねえ……参ったわね。

そして今作ではもうひとつ事件が起きる。病院の地下通路で女性の死体が発見されるのだ。

バスの事件と女性の事件が並行して捜査されるので、この二つの事件の間に何か関連性があるのだろうな、という予感を持ちながら多くの読者はこの作品を読み進めていくだろう。わたしも当然そうした。

ネタバレになってしまうかもしれないが……どういう関連性があるのか一応書いてしまうことにしよう。別に明かしても問題がないからな。いいですか、書きますよ。なんと関連性などほぼないのである。いやこれはまずいよ。なんか読み逃したのかなあ?読み逃したのであってほしい。二つの事件がなんかうまいことつながってどんでん返し系のミステリがめっちゃ好きだからすげえ期待してたのにこれはないよ。泣いた。ひでえ。もしわたしが読み逃しているのだとしたら何らかの手段でわたしに伝えてほしい。再読します……

ミステリやエンタメは、謎か目的で読者を引っ張っていくということを聞いたことがあるのだけれど、今作は明らかに謎で引っ張っていくタイプだ。事件はあまり起きない静かな作品である。そういう作品は謎がきれいに明かされないと不満が大きくなってしまう……高評価は与えられんなあ。

そういえば今作でグレーンスのエピソードに進展があったが、そのエピソードもあんまり作品とうまく組み合わさってないんだよなあ。これからのシリーズで活きてくるんだろうか?その辺は読んでいかないとわからんね。

……とまあ色々ディスってしまったが、おそらく、今作はエンタメよりも社会批判に寄りすぎてしまったのだろう。他の作品はうまくバランスが取れているから、この感想を読んだ人はぜひ、「地下道の少女」ではなく他の作品を読んでほしい。

サスペンス強めの作品が読みたい!という人は「制裁」あたりを読むといいだろう。

驚天動地のどんでん返しがあるミステリ要素強めの作品が読みたい!という人は「死刑囚」を読むといいだろう。

個人的には、サスペンス的要素もミステリ的要素も伴った「三秒間の死角」がおすすめだ。ちょっと長いがほとんど気にならないだろう。

今回は残念な結果になったが、わたしはこれからもルースルンドの作品を読んでいくつもりだ。今回はたまたまわたしの好みと会わなかっただけだ。基本的にルースルンドは打率の高い作家なのである。次はボックス21あたりを読もうと思う。




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