派遣社員実態調査からこぼれ落ちる「実態」~ハケ子の深堀~


久しぶりのnoteはこのツイートを深掘っていこうかと思います。
人材派遣会社を傘下に持つところから派遣社員の意識調査結果が公開されました。

次に、このアンケートが記事化されたものが以下です。

正社員化の誘いを受けた派遣社員の77%が「断った」と回答 - 理由は?
2021/08/20 09:40 著者:CHIGAKO
マイナビは8月19日、「2021年派遣社員の意識・就労実態調査」の結果を発表した。調査は7月1日~5日、現在派遣社員として働く20~59歳男女1,376名(男性489名、女性887名)を対象にインターネットで行われた。

これを見ていくと「なんだ、派遣って結構自分で好きでやっているんじゃない」と思った人が多いと思います。実際、このアンケートや記事をみたと思われるブログではそのような記事が書かれており、上記を引用したツイートでもそのような言葉を目にしています。

アンケート調査って、誰得? ~誰が、何のために~

人材派遣業を営み利益相反のあるグループ企業が、派遣社員に対して行ったアンケート。
これが派遣社員の実態だと言い切れるでしょうか。
マイナビグループは傘下に人材派遣事業を始め人材に関する分野でビジネスサポートを行う「総合人材サービス」企業であると人材派遣会社マイナビスタッフの企業向けページに書かれています。

アンケートは「どこの誰が」、「何のために」実施しているか?で設問の設計が変わり、結果も変わるのは既に知られています。
それゆえ、今回発表されたこのアンケート「結果」で、不本意就労者は殆どおらず、やっぱり派遣はラクだから一度やったらやめられないし望んでやっている人が殆どってことだよネ!と第三者がしたり顔で総括するのはおかしいことに感じます。

ですが、この記事を読んだ側が「やっぱりハケンは恵まれている」「やっぱり好きで働いている人が多い」「正規化望まない人が多いんじゃん」「断る理由が飲み会断りやすい、責任がない、やっぱりハケンはハケン」といったデータ丸のみで拡散してく人が多いことに驚いています。人材コンサルを名乗るブロガーでさえこのデータだけを丸のみして派遣労働とはと派遣社員のキャリア形成を語っているのには心底驚きました。

そのうちどこかのメディアも今回のアンケートを「大多数の考え」としてこの数字を引き合いに色々と知ったように書いてくるのだと思います。彼ら彼女らはデータの扱い方を熟知しているはずで、立体的にデータを読む力があるはずですが…。


数字は絶対?ほんとうに?

確かに数字は数字で結果は結果です。その数字をもってして国内就労する派遣社員の半数以上の声、と拡大推計もできましょう。 でも、この一企業が出したアンケートによって明らかにされたとする一部の派遣社員の希望があるからといって、不本意就労者がいない事や派遣労働問題に悩む人がいない事にはならないのです。

そこは、やっぱりハケンって好きでやってるんじゃん、という方や望まない者がいるのに派遣社員の正規転換は愚策と切り捨ててはばからない方には、アンケートの在り方は実施の方法や実施者次第で縦にも横にも伸ばすことができるものだ、ということは現役不本意就労派遣社員として知っていただきたいことです。

数字、これは誰もが正確で正しく揺らぎのない絶対のものと考えがちです。
ですが、アンケート調査というものは設計やベースにある目的(目論見と言ってもいい)で縦にも横にも伸びます。政府が行う調査も、法や制度を見直したいのか、堅実な結果を出していることを確認したいのか、これで調査内容や設問は変わってきますし出てくる数字も変わります。

  「なぜ正社員にならないのか?」

この問いを、多様な労働から見るのか、非正規と正規の待遇格差から見るのか、その目的で設問設計もその回答選択肢も変わります。それがアンケート調査です。

数字の影のもうひとつの集団

誰が、何のために、どのような目論見を持って実施したのか…これをデータの受け手が考えず出された数字だけ見て、アンケートで大勢が望んでやっているのだから派遣のまま使い捨ていい、と考え口に言葉にするのならそれが誰であっても実際に働く大勢の派遣社員に対して浅い考えで評し見ているとしか言えません。

氷河期非正規もそうですが、調査やアンケートの結果でどうしても不本意就労者の声は表に出ません。僅かに出ても長らく「自己責任」と口をふさがれてきました。まれに、国会議員が大臣に派遣労働問題を問うこともありましたが大臣が堂々と「望んでやっている方もいる」と答弁する程度には不本意就労派遣社員はないものにされてきています。

数字の影に、その数字に参加していない声も拾われないもう一つの集団があること、これは社会全体やデータを見て評する側は意識する必要があります。不本意就労派遣社員が少ないから低待遇でも待遇格差があっても、労働者使い捨てを行ない正規雇用転換は愚策だやる必要はないという事にはなりません。

最後に

同一労働同一賃金、派遣切り、SDGs、人権、差別、ジェンダー・・・様々なキーワードの元にいま社会の価値観がガラガラと変わろうとしています。そのなかで派遣社員の労働意識や労働環境もガラガラと変わっていくことは十分に考えられます。
そういった時流にあっても自分が多様な労働、変わりゆく意識というアンケート結果のように派遣最高!という状態でなく不本意で日々苦労をしているのならそれは変えようのない不本意就労派遣社員の事実で実態です。
n=1だからといって俯くことも、口をつぐむことも必要ない。
どこかに同じように悩み苦しむ人がきっといます。

n=1の声は見えない水面下や陰で他のn=1とつながっています。
そのつながりはアンケート調査で明らかにならなくとも。

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