吉本興業は契約制度でどれだけ変わるか?

 吉本興業の経営アドバイザリー委員会は、会社と芸人の間に「専属マネジメント契約」と「エージェント契約」という二つの制度を取り入れることを提案した。エージェント契約の内容も、二つの制度から芸人が選択できるようにすることも、私が以前から提案していたこととほぼ同じだ。したがって、提案内容そのものは納得できる。

 問題は制度が理念どおり、あるいは芸人が思い描いているイメージどおりに普及していくかどうかである。

 まず今回の提案の目玉である「エージェント契約」は、芸人が吉本興業という傘の下から出て、個人事業主として対等な関係で契約を結ぶという点で画期的なものである。個人事業主、プロとしての原点に返るものだといえよう。

 しかし現実問題として、どれだけの芸人が賢明で損のない選択をする交渉力と知識をもっているかが心配である。まして「エージェント契約」を選択するような人は、芸人としては一流でも身の振り方については必ずしも「一流」ではないかもしれないし、時間的にも超多忙である。うがった見方をするなら、結局は圧倒的な力と存在感をもつ吉本興業に頼らざるをえなくなると会社側が踏んでいるかもしれない。

 少なくとも個人事業主として「エージェント契約」を有効に活用していくためには、国会議員の私設秘書のようなプロと新たに契約する必要が出てくるのではなかろうか。

 もう一つの「専属マネジメント契約」については、いっそう不安がある。かりに市場価値の高い、すなわち吉本の傘がなくても自立してやっていける芸人の多くが「エージェント契約」に移っていったら、「専属マネジメント契約」を結ぶのは、吉本の傘の下にいないと活動できない芸人が中心になる。彼らは今回の騒動のときのようにマスコミにコメントを流し、Twitterで世間にうったえた一部有名芸人と違って、世間を味方につけられるような影響力を持たない。

 そうなると、これまでのような家父長主義は薄れるかもしれないが、契約をタテに芸人の活動がいっそう厳しく管理されるようになるかもしれない。実際、マスコミが発表した改革案を見るかぎり、芸人の活動を制約する契約内容が多くなりそうな気がする。

 新制度がたとえ取り入れられたとしても、それが「絵に描いた餅」にならないよう、今後の推移を見守りたい。


https://www.47news.jp/3866371.html

「個人」の視点から組織、社会などについて感じたことを記しています。