ウクライナ危機 試練に立つ日本の平和主義「左派・リベラル」知識人・市民運動の分断と混迷

※第148回草の実アカデミーの講演動画です。当日配布されたレジメを掲載します。
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ウクライナ危機下の反戦運動  2022年8月27日
杉原浩司 武器取引反対ネットワーク(NAJAT)代表
kojis@agate.plala.or.jp         
                       
※「杉原こうじ」でツイッター、ブログ

1.チェチェンとシリアでの大虐殺の延長としてのウクライナ侵略

・西側の最大の責任はプーチンの巨大な戦争犯罪を追認したこと ※イラク戦争も
<林克明さん>
「チェチェン戦争がなければ、今のような形でのウクライナ侵攻にはなっていないのではないか」
「1999年8月16日のエリツィンによるプーチンの首相任命から、プーチンの思想と行動が一直線に2022年2月24日のウクライナに向かっている」

<「墓堀り人」と呼ばれる匿名の告発者(6月9日、CNN)>
「アサドを許せばプーチンも許すことになる。アサドを止めればロシアの独裁者も傷つく。私たちは過去から学び、こうしたことを再び起こしてはならない」
「何十万人もの人が既に殺害され、姿を消し、何百万人もの人が避難した。それでも最悪の事態はこれからだ。それは阻止できる。お願いだから、これ以上1秒たりとも待たないでほしい。どうか行動を起こしてほしい」


2.試練に立つ日本の平和主義~「左派・リベラル」知識人・市民運動の分断と混迷

(1)ウクライナの人々はゼレンスキーによって戦わされている。徹底抗戦が停戦のネック。
→世論調査、住民の証言、ジャーナリストの報告
 ※国家総動員令による成人男性の出国禁止問題

(2)米国・NATO(の東方拡大)こそが今回の戦争に責任がある。プーチンは追い詰められていた。
→ロシアの西方拡大という要因を無視、軽視。

(3)ウクライナは応戦するより降伏、避難した方が死者を減らすことができる。
→占領後の虐殺、拷問、レイプ、拉致。かいらい政権づくりと支配の既成事実化を軽視
 日中戦争、ベトナム戦争、イラク戦争、ミャンマー、パレスチナなどにも同じことを言うのか

(4)西側の武器支援は戦争を長引かせるだけ。米欧はウクライナに代理戦争を戦わせている。
→武器支援しなければどうなったか、やめたらどうなるか

(5)経済制裁は効果がなかなか出ず、ロシアの庶民を苦しめるだけ。
→戦争の資金源を断つことは不要なのか。金融制裁と武器部品(半導体など)制裁の有効性

(6)虐殺はロシア軍によるものとは限らない。誰がやったか分からない(ウクライナの自作自演)。
→ロシア・ウクライナ双方のプロパガンダを同列に扱う誤り。事実と当事者の尊厳の軽視

(7)侵略ではなく、抗戦も含む「戦争」の停止を至上命題とする反戦論
→国家の武力行使を否定する立場から、人々の意志を歪曲して認識

あえて名前を挙げれば、、、
豊永郁子さん、羽場久美子さん、海老坂武さん、水島朝穂さん、伊勢崎賢治さん、和田春樹さん、浅井基文さん、西谷修さん、纐纈厚さん、小倉利丸さん、市民運動の仲間...に再考を求めたい。
※海外の平和運動の一部も混迷している。

<なぜそうなってしまうのか?>
①ロシアのプロパガンダを含む不正確な情報を信じ込む、誇大に強調する
②反米主義への強過ぎるこだわり
③日本政府やアメリカ政府と同じ主張をしたくない
④侵略した国と侵略された国をごっちゃにする粗雑なナショナリズム批判
⑤「全ての戦争は悪」論に囚われ、武装抵抗を尊重できない
⑥侵略されている当事者をないがしろにして、自説を守ることを優先する
⑦プーチン批判は日本の軍拡(自衛隊)容認、東アジアでの戦争につながるとの思い込み
⑧プーチンの侵略性(大ロシア主義)に対する過小評価
→侵略を止めるための開かれた討論こそが必要。


3.武器の積極供与論と「核戦争に発展するから停戦すべき」論
・4月11日、アナレーナ・ベアボック独外相「今は言い逃れではなく創造性と実用主義の時だ」
・ウクライナへの重火器供与をめぐるドイツ議会での投票では、左翼党と右翼ポピュリズム政党AFDが「反対」(武器支援はドイツをこの戦争に巻き込み、さらに核戦争を誘発する可能性がある)
・「核保有国に対する戦争にはもはやこれまでの意味での『勝利』はあり得ない」(ハーバーマス)
・チョムスキー、キッシンジャー、ミアシャイマーらの停戦(ウクライナ領土の割譲やむなし)論
→「ロシアが人口密集地を残酷に爆撃し、何千人もの民間人が犠牲になった今日でさえ、侵略者を正当化しないまでも、少なくとも「双方に」停戦を求めることで責任を曖昧にしようとする人々がいるのは残念である」(ザハール・ポポビッチ)


4.岸田政権による便乗軍拡と台湾有事論
・「防衛予算 事項要求100超」(8月21日、朝日)
・「長射程ミサイル1000発保有~政府、対中念頭に検討」(8月21日、読売)

・「火事場泥棒」「ショック・ドクトリン」としての防弾チョッキ供与、ドローン供与
・自民党安保提言→「骨太の方針」に明記→国家安全保障戦略改定へ(かっこだけ有識者会議)
1)敵基地攻撃能力(「反撃能力」)保有の公認
・ウクライナ&米・NATOは「専守防衛」「自衛」の範囲に限定している
⇔「指揮統制機能」まで含む「反撃能力」保有論の異常性
2)軍事費を5年かけ倍増(GDP比2%へ)~事項要求含む概算要求から年末の本予算案策定へ
3)侵略を受けている国に殺傷能力を持つ武器の輸出を解禁
 年度内に戦闘機、ミサイル等あらゆる武器輸出を可能にするため、防衛装備移転三原則を改定
→実態は先行(インドネシアに三菱重工製護衛艦、UAEに川崎重工製輸送機C2の輸出を狙う)

・「国家安全保障戦略」改定の独裁的手法~有識者会議を設置せず→かっこだけ有識者会議へ
・核共有論の横行と立憲民主党を含む「拡大抑止」強化論
・経済安保法(甘利明、北村滋、兼原信克の法)、国際卓越研究大学法の静かな成立
=日本版「軍産学複合体」形成の始まりに(自民党国防議連の提言「軍事研究学園都市を」)
~反対できなかった立憲民主党と学術界、弱過ぎた市民運動
・抑止論者=軍備増強論者によるメディアの制圧と誘導される世論
「10兆円規模もあり得る」(防衛研究所・高橋杉雄)
・米中対立の激化と加速する「台湾有事」軍拡~戦争を呼び込む「戦時シュミレーション」の横行
※細谷雄一、鈴木一人ら保守系の論客と何が違うのか?


5.問われる立憲野党と市民運動
・ぶれ始めた泉立憲代表:「(防衛費は)争点にならないかなと思う」「どういった場合の反撃能力が考え得るのかよく詰めていきたい」(5月25日、毎日)
・「NATOの東方拡大が戦争の要因」「経済制裁に反対」のれいわ
・明文改憲反対(改憲発議阻止)への傾斜の前に、国家安保戦略改定への最大限の抵抗を
・玉城デニー知事の選挙政策に「南西諸島(琉球弧)への自衛隊強行配備に反対」が明記


6.抑止論の破たんから能力制限の戦争予防論へ
・ウクライナ侵略の最大の教訓は抑止論の破たん
・核兵器を持った巨大な軍事力でも、プーチンの侵略を抑止できず、侵略を止められない。むしろ核兵器こそが侵略の道具となる。
・抑止論の致命的な弱点=相手の指導者の理性(合理的判断)への信頼を前提とする
 理性なきリーダーを止められない脆弱性、軍拡競争の高次化により破れた時のリスクが増大
・「拒否的抑止力+安心供与」(新外交イニシアティブの提言)だけでは不十分ではないか
→戦争を絶対に起こさない能力制限アプローチへ~専守防衛の厳格化と在日米軍への波及を
・藤原帰一さんの核抑止論批判(『世界』7月号)
・東アジアに敵をつくらない「共通の安全保障」の枠組み(OSCA?)を
・二重基準(ダブルスタンダード)を許さない~ミャンマー国軍留学生の受け入れ中止を
・戦争犯罪の徹底追及と軍需産業へのBDS(ボイコット、投資引き揚げ、制裁)から非合法化へ
※武器支援とは異なる介入の可能性
・旧来型のPKOは展開できなかったのか?→紛争に関係しない国々による緩衝材としてのPKO
・イラク戦争時やパレスチナで試みられた国際的な「人間の盾」運動は?


7.第二のプーチンを作らない~権力をコントロールできる社会を
・「民主主義VS専制主義」の罠にはまらず、小国が侵略されない世界を
・強力な市民社会と独立したメディア
・厳格な三権分立
・強力な野党
・主権在民
・立憲主義の厳守
・権力の分散化、地方主権
・文民統制の強化
・政治権力のカルト癒着の責任を取らせ、関係を断ち切る
・気候危機、災害対策、感染症、貧困などに共同で対処する枠組みを
・持続可能な平和・軍縮運動を


8.ウクライナ侵略を止めるために、日本政府と市民ができること
・戦争犯罪を裁かせる~ICC(国際刑事裁判所)への協力、支援
・戦争の資金源を断つ~サハリン2をはじめとする天然ガス事業からの撤退など
・人道支援、復興支援
・プーチンを孤立させる国際世論の可視化

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