君に薦められた映画を埋めよう私を供えて 器の虚ろ/音羽
君に薦められた映画を埋めよう私を供えて 器の虚ろ/音羽
第一歌集『Immoral Baby_Pink Trap』より
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「私」に「映画」を供えるのではない。
墓穴(なのだと思う)に埋まるのは私ではなく、「君」に薦められた映画なのだ。
よく、感じたものはすべてが血肉になるという人がいるけど、血肉の主人であるはずの私、私の器(からだ)そのものよりも「君に薦められた映画」こそが実であるかのような感覚。
たいへん俗っぽい話で恐縮だけど、バンドであるとかサッカーチームであるとか、恋人と同じものばかりを好きになってまるで"自分"がないんじゃないかというような人の話を聞いたことがある。本来なら「私」が主体的に使役するはずの趣味に、それも恋人のそれに乗っとられてしまったような、あれに近いところがある気がする。それだって根底には純粋で強い愛があるのだ。
この歌中のふたりの関係性は直接的に描かれないけれど、わたしは「君」への依存と言えるくらいの愛情を読み取った。
愛する誰かがくれたものが「実」になることは弱いことでも悪いことでも決してない。だってからだという器は虚ろで、それを満たすいくつかの「実」を誰もが持っていたり、あるいは探しているだけなのだから。
歌集全体はとても極彩色で、煌びやか(歌がという意味。多数のアートワークももちろん素敵だけれど)。ただこの歌はその中でもとても静謐で、タロットの「THE HERMIT(隠者)」のカードのようだ。
でも確かに、歌集全体からも感じるからだから抜け出したところにある強い感覚・愛・酩酊感の詰まった一首でもあると感じる。
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音羽さんの歌集、決して悪い意味でなく恐る恐る、少しずつ読んでいます。
素朴に言うと本当に魅力的だからです。
これも悪い意味ではなく、読者を選ぶ作品集であると思います。けれど"出会うべき"とまで言い切って良いほど、この本と出会うべき読者が沢山いると確信している。
わたし自身の話をすると、自分の歌集に「この名前で性愛の歌はやっていないしやらない」(要約)と書いているくらいなのでこの歌集や音羽さんの作品と親和性があるかと言われると、かなり遠いポジションにいるのだと思います。
ただわたしは彼女の歌が好きで、この歌集はかっこいいです。
おそらく直接的な性的なことばや、女性器(あるいはDNA、あるいは∞)を想起させる数々のアートワークに尻込みしてしまう方もいることと思います。
でもこの歌集はかっこいいです。
(今!伝えたいと思い水曜日だけど金曜日一首評を更新しました、お許しください……)
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雌イキの夫可愛い=虚数って=となりのトトロのカンタ可愛い
彼の顔が好き似ている子は要らない ボサノバ 優しく光る母音
バブルガム膨らますMarilynを水平線に逃してあげて、ベイビー
/音羽『Immoral Baby_Pink Trap』
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