見出し画像

特殊詐欺受け子募集のチラシを見て 探偵事務スタッフ募集という文言の巧妙さ


闇バイトである受け子募集のためのチラシ
(読売新聞オンラインより 2023年4月22日閲覧)

都内に受け子の闇バイトを勧誘するチラシが投函されており警察が注意喚起している。そのチラシを見て、想像以上に巧妙に作られているなと感じた。

正直、自分自身も騙されかねないなと思い、自分への注意も込めて考えをまとめておく。

これが闇バイト募集のチラシとわかった上でみると怪しいことこの上ない。

しかし、それでも巧妙に作られていると感じる点が二つある。

・探偵事務スタッフという「よくわからないがそれっぽい仕事」

・考える隙を与えない募集要項

この二点である。順番に考えていきたい。

なぜ探偵スタッフではなく探偵「事務」スタッフなのか

現代において探偵という仕事は? と聞かれたら何を思い浮かべるだろうか。まず浮気調査や素行調査が浮かぶのではないだろうか。

さすがにシャーロックホームズや名探偵コナンのような探偵を現代の探偵業として思い浮かべる人は少ないだろう。

浮気調査などをする現代の探偵業には、場合によってはアングラな出来事を調査する、個人情報を取り扱うものというイメージが付いている。

ここで実際にチラシを見て連絡するとどのような仕事を依頼されるか見ていきたい。

女性がチラシの連絡先に電話したところ、男に「通信アプリで名前や住所などの個人情報を送って」と指示された。その後、「重要な書類を取りに行ってほしい」とのメッセージが届いたため、女性は詐欺を疑って警視庁に通報した。

読売新聞オンラインより 2023年4月22日閲覧

これは今挙げた探偵業のイメージに似通っているのではないだろうか。もちろん本当の探偵業とは関連がない。あくまでも一般的に想像される探偵業と似ているのがポイントである。そのイメージを意図的に利用しているのだろう。

しかしこの時に「探偵スタッフ募集」とすると、おそらくすぐにばれてしまう。受け子としての仕事は、探偵業のイメージと似てはいる。しかし合致はしていないからだ。

もし探偵スタッフとして募集をかけたなら、

「この人が浮気している可能性があるので情報を集めてほしい。」

このような探偵のイメージと合致する仕事が依頼されないと怪しいと感じるだろう。

しかし、文言を探偵「事務」スタッフとするとどうだろうか。チラシには探偵業務の事務の手伝いですと書かれている。

仕事内容はよくわからない。それでも個人情報を送ったり、書類を受け取りにいったりという受け子としての行動が、さも探偵業務の手伝いをしていると誤解させられるのではないだろうか。

ここに探偵「事務」スタッフとしてバイトを募集する巧妙さがあると考える。

「日払い・即払い」、「明日にでも働ける方大歓迎」、「短期間でお金を稼ぎたい」という募集要項

巧妙さがうかがえる二点目は、考える隙を与えない上記のような文言である。この募集要項を入れることで、冷静に判断させる余裕を与えないようにしている。

日給2万~と書かれている。仮に8時間労働だとしても時給2500円以上と高給だ。これらの募集要項を見て応募する人は、やはり直近である程度まとまったお金を必要としている人だろう。それは考える余裕が少なくなっている可能性が高い人たちともいえる。

特殊詐欺集団は確実に、そのような人たちをターゲットにしている。

月払いだとしたら、なんども仕事をしていく内に怪しい仕事だと気づくだろう。しかし日払いだとしたら気づけるチャンスは、その日のみ。そもそも余裕がない中で気づけるチャンスが一度きりだとしたら。

とりあえず仕事をしてしまう可能性はかなり高いのではないだろうか。

募集要項の内容からも怪しむ可能性が低い人を呼び込んでいる。ここが二つ目の巧妙さを感じる点だ。

犯罪のプロから逃れるのは難しい

特殊詐欺をする集団は組織的に動いている。つまり犯罪のプロ集団である。となると仮にこの仕事を怪しんでも、あらゆる方法でバイトに募集した人を絡めとる方法がある。そう考えるのが自然だ。

例えば、これが本当に探偵としての仕事なのかと問い合わせた場合、浮気調査である証拠をでっちあげて煙にまくことくらいはするだろう。

またもし仕事を請け負ってしまった後に問いただしても、すでに犯罪者だから通報したらおまえも捕まるなどの脅し文句を使うことも考えられる。

素人がちょっと考えただけでもいくつか思いつく。ということはプロが本気で考えたものには十重二十重の対応策が練られているはずだ。

一度でも足を踏み入れたら逃れるのは難しい。そのことを想像するのも予防には大事だろう。

チラシの考案者はすぐには捕まらない

さらに問題なのが、仮に通報したとしても逮捕されるのは末端の人だけということだ。個人情報を送って、書類を取りに行ってと指示していた男も、すぐに足がつく可能性が高いことからもおそらく末端の人だろう。

この巧妙なチラシを考えつくのは、末端の人ではなく集団の中心に近い人だ。その人は受け子がいくら捕まっても、すぐに警察に逮捕されることはない。

このチラシ一枚とってみても巧妙さが伝わるということは、捕まらない方法に関しても、同じくらい巧妙さを仕掛けているはずだからだ。

すぐに中心人物が逮捕されない。だからこそ、受け子になる人を少しでも減らすため警察もすぐに啓発として情報を公開したのだろう。

四月上旬にチラシが配られているが、今日記事がアップされていることからも情報公開の速さがうかがえる。

いたちごっこの可能性

しかし情報公開されたとしても問題は終わらない。おそらくまた同じような方法で受け子の募集はされていく。

さすがに探偵事務スタッフという同じ言葉は使われない。

しかし「よくわからないがそれっぽい仕事」を「考える隙を与えない募集要項」をちりばめて、これからも受け子の募集はされていくだろう。

プロ、しかも特殊詐欺など人をだますことに特化した集団が考えた巧妙なものならば、初見で怪しさを見抜くのは難しいのではと考えてしまう。

想像を超えた「よくわからないがそれっぽい仕事」を募集するチラシが投函され、そのときもし自分に余裕がなかったとしたら。

チラシを見て怪しさや巧妙さを自分なりに理解したつもりだ。それでも飛びついてしまうかもという思いが拭えない。

これだけ自分なりに考えて文章をまとめたとしても、絶対に自分は応募しないとは到底思えない。

それは悪事を行うために知恵を絞ったであろうプロの巧妙さを、これでもかと感じてしまうからだ。

まとめ

よくわからない仕事には手を出さない。うまい話には飛びつかない。このチラシを元にした教訓は短い言葉にすると、この二つに集約されるだろう。

しかしここまで読んでくれた人は、この言葉を見るだけでは防げないなと感じるのではないだろうか。

この記事も啓発になればと思うし、自身への注意喚起としてまとめたことは忘れないようにしたい。

おまけの予防策

最後に一つ別の視点からの予防策も載せておきたい。受け子をすることは想像以上に割に合わないということを理解するのも、受け子にならないための予防になるだろう。

その内容を分かりやすくまとめたTweetがある。それは社会派ブロガーのちきりんさんが2月に投稿したスレッドである。リンクを貼っておくので、ぜひ目を通してもらえればと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?