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メキシコ中央高原~銀で栄えた植民都市

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000003156

「銀色の轍」~自転車世界1周40000キロの旅(13)
木舟 周作
2006-12-08 20:05

 グアダラハラからはいよいよ、遅ればせながらメキシコ自転車旅行が始まった。ラパスで買った新しいタイヤに履き替え、メキシコ全土の道路地図も用意した。

 アメリカでは内陸が酷暑、カリフォルニアの海沿いが温暖だった。逆にメキシコでは海に突き出たバハカリフォルニア半島が暑く、標高の高い内陸が涼しい。眺望の開けた畑や牧場地帯は瑞々しく、緑が豊かだった。おおむね路肩もあって、思ったより走りやすい高原の道が続いた。

 その日は111キロを走破し、街道沿いのヴァジェ・デ・グアダルーペという小さな村に着いた。幸い宿の看板はすぐに見つかった。階段を上がった2階に受付があった。

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田舎町ヴァジェ・デ・グアダルーペ
撮影者:木舟周作

 受付のおばさんは英語が全く通じない。表示されている料金表には、70という数字と、80という数字が並んでいて、僕には違いが分からなかった。とにかく1人であること、1泊したいことを伝え、部屋を見せてもらった。

 安いほうがシャワー・トイレ共同の部屋であると分かった。

  *  *  *

 翌日は午後になって雨に降られた。走行速度が落ち、目的地レオンまで30キロを残し、日没を迎えてしまった。交通量の多い道であるし、疲れてもいるから、レオンまで2時間はかかるだろう。近くにホテルのありそうな集落はなく、たまたま見つけたガソリンスタンドで、1晩泊めてもらえないかと頼んでみることにした。

「ドルミール」。僕は寝るという意味のスペイン語に、頭を横にして眠る仕草を交えて、ガソリンスタンドに勤める兄ちゃんたちに話しかけた。

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街道沿いのガソリンスタンド
撮影者:木舟周作

 若い従業員が、ついて来いと僕を建物の裏に手招きした。ガソリンスタンドは売店を併設していて、その裏に倉庫なのか従業員用の休憩室なのか、別棟があった。その1階の階段下の場所を空けてくれた。

 寝袋を敷けば、充分寝られそうだった。僕は謝意を述べ、濡れた服をまず着替えた。

 ガソリンスタンドの兄ちゃんたちは仕事が忙しいのか、店番から離れることができないのか、あまり僕にあれこれ話しかけてくることはなかった。でも、夕飯にとインスタントラーメンを買いに行くと、親切にお湯を準備してくれた。

 メキシコ入国前は、英語も通じなくなるし、治安もよくないだろうし、どんな旅になるだろうかと少し心配もしていた。だが人は明るく親切だし、カナダやアメリカと比べてもそんなに困難な旅ではないなと、僕の中に楽観的な自信が芽生え始めていた。

  *  *  *

 レオンを通過し、狭くくねった道をしばらく上がると、険しい丘に家並みがはりつくグァナファトの町が見えた。

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メキシコの地図
撮影者:木舟周作

 メキシコ中央高原にはスペインの建てた植民都市が多い。当時のメキシコは世界有数の銀の産出国であり、銀鉱山の多かったこの地方には、数々のヨーロッパ風の町が建設された。急峻な丘に抱かれて広がるグァナファトは、そんな植民諸都市の中でも、最も美しい町といわれていたらしい。

 自転車でこの町に入ってきた僕は、はじめ中心部に通じる道がどこなのか分からず、道に迷った。

 正解は、照明の暗い2つのトンネルだった。トンネルを抜け、店が並び少し賑やかになったところで、道路は再び地下に潜る。平面方向だけでなく高さ方向にも迷路のように入り組んだ中世都市グァナファトは、古くからの地下水道を道路代わりに使用しているらしく、地上の石畳の道と、地下のトンネル道が、複雑に張り巡らされていた。

 グァナファトには2泊した。小さな町であり、観光は徒歩で充分だった。坂道の多い町の至るところには、16世紀以来の伝統を持つ、古き教会の尖塔がそびえていた。

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緑豊かなメキシコ中央高原
撮影者:木舟周作

 町の中心部にある大聖堂カテドラルとその周りの広場は、いつも大勢の人で賑わっていた。その中でもとりわけ混雑するのが夕方の涼しい時間帯であり、カテドラル前の階段は、足の踏み場もないくらいにたくさんの人々が腰掛け、憩いの場となっていた。

 僕もその群衆に混じって座った。地図を広げ、今後の予定をぼんやりと考えた。
(メキシコシティまで、あと4日で着くだろうか……)

【出発から4719キロ(40000キロまで、あと35281キロ)】


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オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記

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メキシコの街は地面から建物が生えてきたような見た目です。

画像を見るかぎりだと、古いアメリカのロードムービーに出てきそうないかにもメキシコという感じの街並みですね。アメリカのドラマでメキシコというのも変ですが、テキサスとかあのあたりの雰囲気。

ここからしばらくは中米を南下する記事が続きます。