見出し画像

「胃」は「発酵」「降濁」「精神不安定の原因」【新訳五臓六腑解説⑥】

【新訳五臓六腑解説】で、「五臓」について一通り終わったので、「六腑」の解説に移っていきたいと思います。

たぶん、最初に話さなくてはいけなかったところなのですが…

そもそも「五臓」の「臓」と、「六腑」の「腑」って、どこが違うの?っていうところから説明させていただきます。

「五臓」と「六腑」の違い

「五臓」は、教科書的な書き方を引用すると「精気を蔵して瀉さず」と書いてあるのですが、気をもらさないで、ためておくのが特徴で、中身がぎっちりと詰まってますよというイメージ。

「六腑」は、「物を伝化して蔵さず」とあり、何かをためておくのではなく、ベルトコンベアみたいに流れてきたものを次の場所へ送り、何かをためておく場所ではなく、筒のように空洞になってますよというイメージです。

二つとも、働きと、形の面で分かれているんです。

「臓」は中身ぎっちり!「腑」は空洞!

「五臓」と「六腑」の「表裏関係」

ちなみに、五臓六腑には、それぞれ「表」と「裏」の関係というのがあって、「五臓」が「表」で、主として働き、「六腑」が「裏」で、五臓の働きを助ける、補佐的な働きがありますよと、東洋医学の世界では説明されています。

具体的に、「肝」と「胆」、「心」と「小腸」、「脾」と「胃」、「肺」と「大腸」、「腎」と「膀胱」がそれぞれ表裏ではペアになっています。

表裏関係は専門的なことなので、説明が少し難しいのですが、例えば、肝の症状が長引いてくると、その裏である胆にも反応が出てきますよと感じです。また、逆もしかり…

私は鍼灸師として、日々人のからだを診ているのですが、からだを流れる気の通り道である「経絡」を観察して、からだの表面の状態から、五臓六腑などの深いところの状態を観察します。

症状が長引くほど、からだの反応も複雑になってきて、長引く症状だと、表の反応が裏に、裏の反応が表に移行して、片方だけを治療しても、うまく変化が出なかったりするのです。

自分でできる、簡単なお灸をしても症状が改善しない場合、単純に一カ所の不調ではなく、黒い影がブワーッとひろがって、他の部分まで覆い尽くすくらいにひろがることもあるんです。

そのひろがりの中でも、五臓と六腑との、表裏関係でのひろがりは重要で、病の「深さ」と言いましょうか、治りにくさや、治りやすさを判別するのに、必ずと言っていいほど、私は表裏関係を診ていきます。

…たぶん、表裏ってイメージしにくいんですよね。

六腑の解説に関して、表裏関係についても、できるだけイメージしやすいようにお伝えさせていただこうと思います。

それでは、「胃」の解説からはじめます!

「胃」のイメージは、ずばり「発酵」!!

胃のイメージなのですが、まずキーワードは「発酵」だと思ってください。東洋医学の専門用語だと「腐熟」といいます。

口から取り入れた食べものを、胃という大きな鍋に入れて、煮るというよりは発酵させて、からだの中で使える形にするのが胃の大きな働きです。蒸す感じでしょうか。ヨーグルトをつくるヨーグルトメーカーみたいなイメージ。

鍋を温めるのは、熱源である「腎」です。

「胃」と表裏関係である、五臓の「脾」の働きの補足をここでさせていただきたいのですが、脾って、私のイメージだと「魔法使い」みたいな印象があるんです。

少し詳しく説明させていただくと、食べもの口から入れ、胃に入ったとイメージしてください。

胃に入った食べものは、腎の熱源で蒸されて発酵し、口から取り入れた食べものから、形を変えて、からだの中で使える物質に変化させます。

一般的な考え方では、唾液に含まれるアミラーゼがでんぷんを分解し、ブドウ糖に変化させると頭の中に入っている方もいるかもしれません。

東洋医学のイメージでは、食べたものに消化酵素を混ぜてからだに必要な形にするのではなく、食べものを発酵させて、脾の働きによって、栄養に変えると考えているのです。

だからこそ、消化吸収には魔法使いのような脾の働きが重要!

胃で発酵された食べものに、脾の魔法のような働きが加わると、気や、血の源になる、「万能物質」と言いましょうか、iPS細胞のように、何にでも変換できる物質に変化するんです。

脾が、「えいやぁ!!」ってすると、胃で発酵した食べものが、からだの中で使える万能物質になると。

万能物質は、生命エネルギーである「気」になったり、からだ全体を栄養する「血」になったり、からだに潤いを与える「水」になったりします。

食べても、食べても太らないという場合、この脾の魔法使いのような、胃で発酵された食べものを、万能物質に変えることができないため、そのまま素通りして身にならないということが起こるのです。

…なんとなくイメージできたでしょうか?

「胃」の「降濁作用」

脾の「昇清作用」に対して、胃は「降濁作用」というものをもっていて、食べものを食べた後、からだにとって必要なものと、不必要なものを分け、不要なものを小腸や大腸へ送る働きをつかさどっているのが、胃腸の大きな働きの一つなんです。

昔の人は、胃は単なる消化器官という意味だけではなく、からだに必要なもの作り、不要なものを下へ下へと排泄するための推進力というか、ベルトコンベアを動かす原動力のような働きが胃にあると考えたのです。

不要なものが小腸、大腸へと降っていかないと、ゲップが多くなったりするのですが、胃の発酵、腐熟作用と、下に下げる降濁作用の低下が、主な原因です。

食べたものを発酵させることができず、からだの中に未消化なものがたまってくると、「舌」の上に生えている、白い苔のような「舌苔(ぜったい)」が分厚くなってくるので、舌のブラシでゴシゴシこすらないと苔が取れないと感じている方、胃、脾の働きが低下している可能性がありますよ。

「胃」と「心臓」の関係

ちょっと、難しいというか、今まで話してこなかった内容で申し訳ないのですが…

人のからだには気という生命エネルギーが流れていて、気は「経絡」という通り道を流れていると考えているのです。

五臓六腑それぞれに経絡があって、胃の経絡(正確に言うと、足陽明胃経の経別…ちょっとややこしくなりましたね…聞き流してください)は、心臓にもめぐっているんです。

胃の経絡が心臓にもめぐっているからこそ、食べ過ぎると心臓にも負担がかかり、食べ過ぎで精神不安定になることもあるのです。

食べ過ぎて寝ると、胸が苦しくなったり、気分が落ち込んだりするのはそのせい…

余談なのですが、こころの病で来院される人の中に、一日菓子パンを10個くらい食べている女性がいたんです。

小麦って、漢方では小麦(しょうばく)と言って、胃腸の働きを整えたり、精神を安定させる作用があるんです。

最近、コンビニでも売られるようになった「ふすま」(「ブラン」のことです)には、気のめぐりをよくして、むくみを取ったり、下痢を止めたりする働きがあります。

でもですね菓子パンって、砂糖も多く使っているし、割と胃腸に負担がかかりやすいんです…

なんでもそうですが、食べ過ぎると、からだを壊す働きになるんです。

甘いものを欲するのは、甘味に水を集める働きがあって、水が集まるからこそ、からだが緩むのです。

緩むイメージは、胃の性質は五行では「土」で、土に水が引かれてきて、土が泥に変化する感じ。

甘味を取り過ぎると、泥がグチャグチャになって、からだ全体がだるく重くなってしまうんです。

食べ過ぎで胃や脾に負担がかかり、なおかつ、こころを安定させる心臓にまで負担がかかり、精神不安定にもなりやすいとご理解いただけたら幸いです。

以上で胃腸の解説は終わりです。

「胃」のまとめ

胃は、発酵(腐熟)を行っていて、食べものをからだの中で使える栄養に変えるのに、重要な働きをしています。

また、消化だけではなく、不要なものを排泄するために、小腸、大腸と、ベルトコンベアのように下降させる作用があると。

胃は心臓とも繋がりがあって、食べ過ぎると精神不安定になることもあると…ざっとこんな感じです。

「五臓」に比べて「六腑」は内容が薄いというか、本を読んでもあまり詳しく書いていないことが多いかもしれません。

五臓に比べて、六腑はあまり注目されないというか、隅に追いやられる感じがあるのですが、今回解説した「胃」は六腑の中でも別格というか、全身のエネルギーを作るために、とても重要な働きがあるため、胃を重視する鍼灸師の先生たちは多い気がします。

胃は、六腑の中でも、かなり重要な役割があると頭に入れておいてください。

【新訳五臓六腑解説】では、できるだけ、五臓と六腑の表裏関係を読み解きながら、みなさんにからだの中をイメージしていただけるように書いていこうと思います。

みなさんご自身の、からだに対する捉え方がひろがることを願っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?