ブックガイド(3)「無国籍哀歌 錆びた拳銃 」(BEAM COMIX)

(2008年 12月 11日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
無国籍哀歌 錆びた拳銃 (BEAM COMIX)
谷 弘兒 (著)

昭和33年生まれの俺は、小学3年生の時に映画のロケに遭遇したことがある。場所は、那智勝浦の海水浴場
きれいな水着の姉ちゃんに言い寄るチンピラ三人組を、一瞬にして叩きのめすマドロスのお兄さん、というシーンで、間違いなくこれは日活アクション。でも、どんな映画なのかなと思って調べても、当時の日活映画の8割は、マドロスがチンピラを叩きのめす映画なので判らなかった。

ということで、今回取り上げるのは昭和の匂いが堪能できる谷 弘兒(ひろじ)の「無国籍哀歌 錆びた拳銃」だ。
もうこのタイトルの文字だけで泣けるよ。「錆びたナイフ」+「紅の拳銃」じゃないですか。
俺が初めて谷さんの作品を読んだのは1978年ごろ、「ガロ」(青林堂)に掲載された作品だった。そのころからもうレトロな絵柄だったのだから、もうこれ一筋だな。
この作品集は、腕に人魚の刺青をした船員を主人公とした短編を中心にして、どの話も流れ者のデラシネが、旅先でふとすれ違う愛や憎しみを描いている。もう、ぐっとくるほど「大人」ですよ。しっかりしたハードカバーの装丁がいい。

霧笛が響く波止場町、
ネオンに輝く夜の蝶、
女の涙にほだされた、
マドロスの鉄拳がうなる
どうせ明日は旅の空、
紫煙の影の悪漢に、
俺の拳銃(コルト)が火を噴くぜ。

といったところかな。

10年ぶりぐらいに谷さんの作品を読みましたが、こんなに魅力的に女性を描く作家だったのかと改めて感心しました。
本屋で見かけたら迷わず買うべし。

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