創作エッセイ(82)小説を書きながらの気づき(2)「不死の宴 第二部北米編」の場合

 この第二部は1956年のアメリカ合衆国東海岸が舞台である。第一部で消息不明になった北島晃というキャラクターと、米軍に持ち去られたミ号計画と姫巫女・俊子の運命を描きたかったのが動機。同時に、私の大学時代に起きた50年代ブーム(フィフティーズ)も念頭にあった。ちなみに映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主人公マーティがタイムスリップする時代が1956年である。


舞台を選ぶ

 調べていくうちに、メリーランド州フレデリックにあるフォート・デトリックという米陸軍の医学研究施設が、なかなかヤバイということが判ってきた。炭疽菌とかで事故も起こしている。小松左京の「復活の日」にも登場するし、クライトンの「アンドロメダ病原体」のモデルでもある。そこで、これを第一部の登戸研諏訪分室に相当する位置づけにした。
 その上でキャラを配置していく。
 実験の為に集められた四人の死刑囚がヴァンパイアになり、やがて脱走。当初は、脱走した四人のヴァンパイアが、四者四様の形で四つの街で生き延びようとする、それを俊子とアーノルドのバディが狩っていくというヴァンパイア・ハンター物語をうっすらと考えていた。キングの「呪われた街」である。
 しかし、調査をするうちに、当時の米国社会と現代が実に上手く暗喩できそうに思えてきた。1956年は大統領選の年で、共和党のアイゼンハワーが二期目の当選をする。そして執筆当時はトランプとバイデンの選挙戦の真っ最中でもあった。ありきたりのヴァンパイア・ハンティングものから脱却できるやん!

キャラクターの配置

 そこで、ヴァンパイアのキャラクターを詳細に決めて物語に「配置」した。
 第一代の四人のヴァンパイアのうち、一人は自殺。その謎の自殺者が残した次世代のヴァンパイアがゴスペルを歌う黒人美女マリア
 娼婦を救うために殺人者となったゲイリーと、彼が愛して眷属にしたカルメン。
 そして政治犯として恩赦狙いでヴァンパイアになった元米国共産党員のマーク
 彼ら四人が当時のアメリカ社会のムーブメント(公民権運動など)に知らないうちに影響を与えていく。そして、脱走の裏で糸を引いているソ連、西海岸にいる北島。
 という具合に物語が一気に拡がっていった。

狂言回しの存在

 第一部では岡山県に疎開する途中の探偵小説作家が上諏訪町でミ号実験兵達の事件を垣間見るというシーンを入れている。部外者の目線を入れて、この事件が歴史の裏側で起きていたというリアリティを演出すると同時に、その作家(横溝正史)へのリスペクトを込めています。
 同じような事を第二部でもやりたくて、大好きな作家リチャード・マシスンと映画監督ロジャー・コーマンを選んだ。必然的に50年代の北米SFファンダムに対するリスペクトを込めた。ハインラインの「夏への扉」が、正に1956年に発表されていることを知り、運命的に感じたのだった。

次の作品への布石も生まれる

 第二部では、その作中で事故のようにしてヴァンパイアになるキャラクターも出てくる。追跡任務の途中でカルメンに噛まれてヴァンパイア化したウィリアム・コリンズというMPだが、これが第三部の冷戦編(舞台は1972年の日本)で、大活躍する。
 また、男性の場合、人狼化した時は狂戦士(バーサーカー)になるのだが、女性の場合は月経周期のようにそれをコントロールできるという設定も考えた。これで、このシリーズでは活躍する人狼(ライカン)は野性的な美女ばかりとなった。これも第三部で大活躍する。
 新たな小道具として、銃から発射された後、紫外線を出しながら体内にとどまり内側から組織を燃やしていくというUV弾頭を考えた。銀の弾丸のSF的解釈で、これも第三部で頻繁に登場する。

 書き手と同時に、読者としてわくわくもする。こんな展開が、長編を書いていく上での醍醐味なのだ。だから長編は止められない!


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