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まえばし心の旅016:赤城山

 「裾野は⻑し赤城山」、と上毛カルタで詠まれる赤城山は、前橋出身者にとって特別な存在 だ。学校の校歌にはかならず登場し、会社の名前や商品名、そして運動会の「赤城団」など、 前橋市⺠は「赤城」という言葉を見ない日はないだろう。
前橋から見えるその姿は凛々しく、かつ優しくもある。冬の赤城颪の厳しさと、春から見せ る緑を湛えた姿の両面性があり、赤城山の見え方で季節の移ろいを感じる。「見え方」とい えば、「どこから見る赤城山が好きか」は、前橋っ子の隠れた論争のテーマだ。

 身内の会社の保養所が赤城山にあったので、子供の頃から夏休みは赤城山で過ごすことが 多かった。自転車で大沼の周りを回ったり、時にはモーターボートに乗せてもらったりし た。バーベキューやキャンプを楽しんだり、ワカサギの甘露煮をいただいたりしたこともあ った。


 夏ばかりでなく、冬にスキーを覚えたのも、赤城山だった。なにも時間をかけて大きなスキ ー場に行かなくても、初心者の小学生にはぴったりサイズのスキー場だった。その時に見 た、針葉樹に着いた樹氷が山一面に広がった美しい姿は、今でも記憶に残っている。


 小学校4年生の時だったか、学校行事で林間学校、すなわち「赤城少年自然の家」に行った。 みんなで大沼でカッターを漕いだり、キャンプファイヤーをしたことをよく覚えている。


 赤城に登る道は、カーブが多い。子供の頃はたまに乗り物酔いに苦しめられたが、免許をと ると、「イニシャル D」には程遠いが、マニュアルミッションの車であの道を登るのが楽し みだった。


 きっと、多くの前橋っ子が、それぞれの思い出を赤城山に持っているだろう。雄大な大沼と、 そこに鎮座する赤城神社。神秘的な小沼や、昭和天皇も愛された覚満渕。地味な印象がある が、けっこう充実の自然豊かな観光スポットだ。


 そして、何も、山頂の方まで行かなくても、赤城山に向かう道には、お蕎⻨屋さんや、カフ ェなど、木立の中に佇む、こだわりのお店が多い。その辺りは、前橋市内からも車ですぐに行けるし、心地よい風が吹き抜け、空気も綺麗だ。 そんな環境に惹かれてか、多くの芸術を愛する人たちが、赤城の南面に居住している。さら に最近は、ぶどうを栽培し、ワインを作る取り組みなども始まっている。


 日本海から来る風は、上越国境を超え、赤城颪として前橋を吹き抜ける。赤城山に降り注い だ雨や降り積もった雪は、川や地中を流れ、やがて利根川に合流し、太平洋に注ぐ。赤城山 は関東平野の北端に立ち、風と水で、関東を清める。


 そんな赤城山は、私たちに豊かな実りと、癒しや寛ぎを、そして時には厳しさを与えてくれ る。私たちにとって、永遠の母なる山だ。

令和3年8月4日放送

音声データもこちらからお楽しみ下さい。


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