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まえばし心の旅14:白井屋ホテル

昨年 12 月、白井屋ホテルが開業した。300 年の歴史を持ちながら廃業してしまった白井屋 を大規模に改修したが、その工事に数年かかったために、工事中は「前橋のサクラダファミ リア」なんて呼ばれていた。


アートをメインコンセプトとしたこのホテルは、さりげなく置かれているアート作品一つ 一つに、ストーリーがある。また、様々なメディアに取り上げられており、前橋に注目が集 まるきっかけとなっている。

馬場川通りの緑の丘は地域に開かれており、自然と歩きたくなる通路や階段が伸び、川沿い にはタルト屋さんが開店し、秋には地方都市としては初めてブルーボトルコーヒーがオー プン予定など、まちなかに話題を提供してくれている。

私が好きな場所は、大きな吹き抜けだ。空と繋がっているかの様な空間で、自然の光がやさ しく降り注ぐ。屋内にいながら、屋外のテラスにいる様な感覚を味わえる。薄暗くなるとレ アンドロ・エルリッヒの配管が引き立ち、時間によってその表情を変える。昔からある梁や 柱が剥き出しになっているが、あたかも最初からこの吹き抜けのために存在しているかの 様な自然な存在であり、この空間の無国籍感を生み出している。

吹き抜け内部は、ラウンジとして使われていて、宿泊者でなくても、食事やお茶などを楽し むことができる。たくさんの植物が飾られ、テーブル同士の間隔も広く、他のゲストやスタ ッフの動きに気を煩わされることも少ない。
私は、何か考え事をしたい時や、アイデアを出したい時に、このラウンジを使う。ゆったり とした時が流れ、スタッフの穏やかな接客も、思考の邪魔をしない。ノートに万年筆を走ら せ、時にはお茶を口に運ぶ。頭が疲れたら、植物や降り注ぐ光に目を向け、軽く深呼吸をす る。

もちろん、ホテルであるから、客室も大切だ。一部屋一部屋違うデザイナーが関わり、アー ト作品も置かれ、同じ部屋は二つとない。調度品もデザイン重視で選ばれている。そして、 バスタブがとても⻑く、足を思いっきり延ばして、ゆっくりとくつろげる。タオルにはホテ ルのロゴが入っていて、「白井屋ホテルに泊まる」という特別感を演出してくれる。

そして、「真茶亭」の入口は、ガラス・木・銅の素材感で自然と中を見たくなるし、その奥 の茶室は、旧白井屋の歴史と記憶を引き継いでいる。
白井屋ホテルは、普通のホテルと同じ感覚だと理解が難しいかもしれない。前橋に用事があ って、その夜の宿泊場所として選ぶホテルではない。「白井屋ホテルに泊まる」という体験 をするホテルなのだ。あ、「ホテル」ではなく、「泊まれるアートスペース」と言った方が、 適した表現かもしれない。アート作品、部屋、料理、建物、緑の丘、そういった全てを、探 検するかの様な気持ちで楽しむのが、白井屋ホテルにいる時間を輝かせるコツだ。

私の様に、ラウンジは、気軽に使うことができる。お茶代だけであの空間を味わうことがで きるのだ。そう、「空間を味わう」ことができる。前橋にそんな価値をもたらせてくれてい るのが、白井屋ホテルだ

放送日:令和3年7月14日

音声データはこちらになります。

ブログには、より多くの写真があります。


白井屋ホテルを紹介している動画もお楽しみください。


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