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まえばし心の旅029:群馬県民会館

今日は11月3日、文化の日。前橋市内には多くの文化施設があるが、その代表格は、群馬県民会館ではないだろうか。正面につながる西側の並木路を抜けるとロータリー状の広場があり、その向こうに大きな壁が直立する。壁一面には石が貼られ、上部を見上げるとオーバーハングになっており、小さな縦型の窓が並ぶ。視線を下に戻すと、目の前には小ぶりなガラスの箱状のエントランスがあり、自然とそこに導かれ、巨大な石の箱の中に吸い込まれる。

中に入ると空間は天井まで大きく広がり、そこから小ホールには行くには階段を上がり、上がった先からは、ロビーや大きな窓の外に視界が広がる。大ホールに行くには逆に階段を降りる。すると、さらに頭上が広がる。かなりダイナミックな空間構成だ。中央の通路が少し斜めになっており、一階を通り抜けると、東側の公園につながる。公園から建物を見てみると、エントランス側とはまったく違う表情を見せる。西側からみた建物は、窓が少なく無表情に縦に聳えるが、東側からみると、横に広がり、ガラスを多用し、優しさを感じる。東西でこれだけ違った表情を見せる建物も珍しい。

私が育った家は、この東側の外観がよく見える場所にある。なので、子供の頃からの景色のなかに、いつも県民会館があった。また、小学生の頃は、よく県民会館の敷地内を通って家に帰った。建物の周りには、芝や木がたくさん植えられていて、東側の公園と一体化して、緑溢れる空間になっている。私にとっては、いつもそばにあり、優しく受け入れてくれる建物だ。

この建物は、岡田新一さんという建築家が設計したが、後に最高裁判所や警視庁の設計を担当する岡田氏にとって、県民会館はデビュー作とも言える。当時の群馬県の建築家の選定眼は、かなり先見の明があったのではないか。周囲の景観計画も岡田新一氏が行い、県立図書館や前橋商工会議所などと共に、地域の一体感を醸し出している。

私は演奏会などで、たびたび県民会館の舞台に上がっている。まだ開演前、お客様がいないときに大ホールのステージの上に立ち、客席を眺めると、少しくすんだ赤の座席が広がり、その上に薄いグレーの空間が覆い被さる。その大空間は、雄大だ。

お客様が入り、演奏会が始まると、その空間は開演前とは異なる上気した雰囲気に変わる。緞帳が上がった時に感じる、照明の光とお客様の視線は、演奏者の気分を高揚させる。ただ、楽屋はちょっと天井が低く、階段が多くて移動や楽器の運搬などにちょっと不便だ。

群馬県が県有施設としての廃止を検討したが、多くの動きがあり、3年間は大ホールを中心とする施設が存続することとなった。問題は3年後にどうなるかだ。確かに建物は古いが、あの空間構成や、ふんだんに石やガラスを使った建物は、県民の宝とも言える貴重な建物だ。西側の正面広場も、イベントなどに活用できる。いろいろな人の知恵で、県民会館を文化・にぎわいの拠点として末長く活用していきたい。

放送日:令和3年11月3日

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