委員長

私の名前は「委員長」だった。

 中学生の頃、教室で過ごす私はかなり内気で陰気だった。
 同じ小学校出身の子とか同じ部活の子とか、勿論比較的仲のいい子は数人いた。が、そうでない、「同級生」以上の呼称を持たない関係の同級生達には、私は名前を呼ばれることはなく、「委員長」と呼ばれていた。

 「委員長、靴下交換してくんね?」
 これはクラスの女バレの子の台詞である。
 女バレはやや強くて、毎日のように朝練があった。部員達は練習着で登校して、授業の前に制服に着替えるらしい。問題なのは、彼女たちは度々制服用の靴下を忘れてしまうことだ。校則では、ワンポイントのみのふくらはぎ丈のスクールソックスを履かなければならない。練習で使った派手なくるぶし丈のソックスなんてもってのほかだった。
 一回目のことは覚えていないけれど、いつしか、スクールソックスを忘れた女バレ達は、私のところに来て、私の履いてきたスクールソックスと校則違反のくるぶしソックスを交換するようになった。始めは同じクラスの一人だったが、口コミで広がったらしく、全く接点のない女バレまでやってくるようになった。

 ちなみにだが、私は委員長ではなかった。学級委員ではあったが、学級委員長ではない。おそらく、地味で真面目そうな印象から、適当にそう呼んでいたのだと思う。

 委員長は本当に仄暗い学校生活を送っていたから、どんな呼び名であれ用件であれ、同級生に話しかけられて役に立てるのが嬉しかった。
 始めは先生達の目に怯えながらいつも以上にコソコソ一日を過ごした。次からは、柔道をやっていたために持ち歩いていた白いテーピングを派手なくるぶしソックスに巻きまくることでカモフラージュした。そして数回すると、予備のスクールソックスを持ち歩くことを覚えた。
 するとスクールソックスを求めるハードルはさらに下がったようで、女バレはかなり気軽に委員長のもとにやってくるようになった。

 授業前のトイレの個室でテーピングを両足首にせっせと巻いたり、なるべく使い込んでいない靴下を選んで予備用に鞄に詰めたり、今思い返せば随分滑稽で、そして惨めだったかもしれない。それでもなんだかどうしても、私はそんな感じの人間で、そんな感じの中学時代だったのだ。
 私のスクールソックスのワンポイントのスヌーピーは、何匹行方不明になったか分からない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?