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宇宙の濃度

【小説】 ※無料で最後まで読めます


雨音を聞きながらコーヒーを飲んでいたつもりがいつのまにか逆になっていた。雨水をすすりながら降り注ぐコーヒーの音を聞いている。おそらく砂糖ひとつ分の濃度のコーヒー。注がれているこの世界は巨大なコーヒーカップの形をしている。誰かにひょいと持ち上げられてしまう。中身が揺れてしまう。あるいは僕自身がカップに降り注ぎ、何者かにすすられ、音を聞かれ、砂糖の濃度を推量されているかもしれない。人間だろうとコーヒーだろうと少しも油断できない世界だ。もちろん雨だろうと。きみだろうと。コーヒーカップに注がれた真っ暗なコーヒーの海。その中には無数の数え切れない星々。地球と似た星もあって、何十億もの人々が暮らしている。戦争とか恋愛とか商売とか、コーヒーカップに収まる程度の、ままごとみたいな可愛いいざこざがあって、僕やきみに似た人もいて、髪がきれいだとか声がすてきだとか言いあっていて、そんな世界は丸ごと、毎日2杯ずつくらい誰かに飲み干されている。生きている人も死んでいる人も天国も地獄もまとめて。だから僕たちは毎日ふつうに絶望しててかまわない。蒼褪めた顔でかまわない。ぜんぶ途中でかまわない。窓の外にはコーヒーの雨。飲まなくても砂糖の濃度はわかる。カップの中には雨水。雨水の味は雨水の味。部屋の中で傘を差しても、世界はひとつにならないよ。





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286字

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