Dead Flowers (reprise)

画像1 災厄によって世界はくまなく数字に置き換えられてしまった。つまるところ僕もあなたも、あらゆる思想も感情も、犬の鳴き声から飲食店のメニューのフォントにいたるまで、この世のすべては単なる数字の羅列で表現されている。
画像2 膨大な数字を並べ替えて再現した世界には古典的な花があふれかえっている。花びらのひとつひとつが僕たちの姿であり、花びらのひとつひとつが僕たちとは無関係の単なる数字だ。
画像3 数字というのは0から9までの記号のこと。その無限の組み合わせによって世界は再構築されている。どこにも継ぎ目なんて見えないけれど、結局ちぐはぐなパッチワークであることに変わりはない。
画像4 何かを見るとき、僕たちは数字をその都度こまかく組み立て直して、みんなで違う景色を見ている。あまりに手近な数字だけを集めて、似たり寄ったりのものばかり見ている人もいれば、あまりに古かったり遠かったりする数字ばかりを集めて、まるで見当違いの場所に住んでいる人もいる。
画像5 きみの姿を見たことはないけれど、きみとの議論は終わらない。きみとの恋も終わらない。きみが好きだし、きみを憎んでいる。きみとは永遠に出会えなくて、きみの髪からはプールの消毒槽のにおいがする。夏という過去の遺物。すべてが並列に存在していて、だけど分解すればどれも意味を持たない数字だ。
画像6 「いやー、僕らもがんばっていかなアカンなー言うてやってますけども」「ねーほんま、顔と名前だけでも覚えて帰ってくださいねー」「しかし今日のお客さんはべっぴんさんが多い」「ほんまやね」「右から順に、べっぴんさん、べっぴんさん、ひとつ飛ばしてヒアルロン酸」「やめんかい。失礼やがな。ほんで飛ばされたお客さん、べっぴんさんやないから飛ばされたんか、ヒアルロン酸不足で飛ばされたんか、どっちかわかれへんからパニックや」「どっちもやがな」「ええ加減にせえ!ほんま失礼やで。きみとはもう、やっとられへんわ」
画像7 きみは少し笑っている。「すべてが数字の組み合わせなら、すべては過去の焼き直しってこと?」「そうだよ」「でも数字って無限でしょ?」「うん、そう」「だったら、まだ誰も使ったことのない組み合わせも存在するよね?」「うん、常に」「オレンジビスケットにホイップクリームをお付けしますか?」「うん、常に」
画像8 それから、ステージで音もなく静かに踊るきみを、僕たちはうっとりとながめていた。音楽はそれぞれのイメージの中で鳴らすしかない。それすら数字の上下動にすぎないけれど、音楽というのは、この世で最も素晴らしい数字の末路だ。
画像9 だって窓の外は常に世界の果てだし、窓の内側だって常に世界の果てなんだよ。
画像10 かつて経験したすべての履歴を繰り返す空。きちんと計算すれば、どこまでも正確に予測できる雲のかたち。
画像11 高温で溶け出して流出する数字。ただの数字に意味を持たせるとこういうことも起こる。だけど意味という幻想の中でしか生きていけない存在だって多い。意味に意味はないし、意味付けって自由から最も遠い現象だけど、いちばん僕たちを惹きつけるのもまた意味だ。
画像12 僕たちの棺。たいていの数字はここで静かに冷やされている。ルールに従っていさえすれば、数字でいることはとても安全で、とても素敵だ。
画像13 といっても正確なルールなんてもう誰も覚えていないんだけど。すべての数字は暴走していて、誰にも止めることはできない。僕もちょっと熱があるみたいだ。きみの風邪がうつったんだと思う。少し休もう。好きなだけ眠って、好きな時間に起きて、好きな日付を設定し直そう。僕たちは過去のどの時間にだって住めるし、それは未来のどの時間でもあるんだよ。僕たちは何をしたってかまわない。底のないゴミ箱に数字を永久落下させてもいい。糖分の取りすぎにさえ注意していれば、何をしたってかまわないんだ。