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けものの叫び

【小説】 ※無料で最後まで読めます

世界の中心で愛を叫んだ帰りに財布がないことに気づいた。愛を叫んだ拍子に落としてしまったのだ。愛なんて叫ぶから。何をはしゃいでいたんだろう。急に恥ずかしくなってきた。とぼとぼと来た道を戻る。ふたたび世界の中心に戻った私。二度と来ないつもりだったのに。すでになつかしい。こんな場所は私には似合わないなと思う。道には乱視用メガネとかTSUTAYAのカードとか巨峰とかデラウェアとか恐竜の化石とかがごろごろしている。それらにまぎれて私の財布。やっぱりここに落としていた。拾おうと身をかがめて、すぐ横に愛が落ちているのに気づく。さっき叫んだ愛だ。飛距離が短い。いま見るとすごく変なかたち。つや消しマット加工。死にかけのくせに「ここは世界の中心だぜ?」とか言っててむかつく。「月がきれいですね。英訳してください」とかバカみたい。触りたくないので片付けずに置いて帰った。世界の中心にお住まいの皆様、誠に申し訳ございません。



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