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かなしくてやりきれない

【小説】 ※無料で最後まで読めます

事故で喜怒哀楽のうち哀以外の感情を失ってしまった。哀しい。
最近の私はいつも物憂げに、伏し目がちに暮らしている。
すると不思議なもので、以前より格段に他人から好意を持たれるようになった。おそらく喜・怒・楽といった感情は私には似合わなかったのだろう。
かつての私はとても感情の起伏が激しかった。どこかちぐはぐな女だった。哀という感情は私を魅力的に見せるし、しかもそのトーンで統一されている今の私は、ショーケースに入れられたシンプルでわかりやすい製品なのだと思う。ごちゃごちゃと多機能なものより手にとってもらいやすい。ひと目で私がどういう人間かわかってもらえるのだ。
事実、これまであまりうまくいっていなかった私の人生は驚くほど好転した。いろいろな人から親切にしてもらえるようになったし、頻繁に誰かから愛の告白を受ける。出世もした。お金もある。毎日とても哀しい。



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