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無題

薄曇りの空から差し込む光の筋は
甘やかな記憶を拭い去るには十分で
残り香の中揺蕩う時間さえも
背中を狙う悪意に握りつぶされた

なぜここにいるのだろう
いつ逃げればいいのだろう

窓の隙間を吹いてくる風は
遠い海からの騒めきさえも連れてくるから
あの日の暑さを思い起こす前に
閉め切られた室内から音さえ消えた

いつからここに
いつまでここに

存在さえも脅かされ忘れられ消され
どこにもいなことになっている自分がここにいるということの滑稽
光も闇も届かないしじまの波間に
何も見えないことになっているはずの希を消せないという道化

何も見えないから
何も聞こえないから

ただ手を伸ばした
それだけだったんだ

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