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blue note

あの夜は確かに存在した
美しい美しい夢のようだった

センター2列目
あり得ないほどの近さに
彼の人が居た
丁寧に大切に歌っていた
まっすぐ前を見て歌っていた
客席を見て動いて歌っていた

わたしはと言えば
あまりの近さに身じろぎもできず
瞬きもできず
ただただバカみたいに見つめていた

瞬きをしたら消えてしまいそうで
呼吸をしたら消えてしまいそうで
見つめることしかできなかった

美しかった
綺麗だった
凛とした佇まい
優しい仕草
優美な指先
話す時少し斜めになる
親指が反り返っている
大きく息を吸っている
こちらを見る
後ろの方まで見る

全てを目に焼き付けたつもりだけど
時間が経てば曖昧で
美しかったことだけを憶えている

ただずっと見つめていた
美しい美しい夢みたいだった


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