見出し画像

エレクトロニックミュージックのライブの構築についての考察 -③-

——シチュエーションに答えを出す。観客は無人島をまるまる展示会場にした芸術祭を鑑賞した後、まだ冬の真っ只中の夜の砂浜で音楽を聴くことになる。波の音が加わってくる。風もあるかもしれない。——

1月29日と2月11日、横須賀は猿島をまるごと展示会場にする芸術祭「Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島」で約3年ぶりのライブパフォーマンスを披露する。大変嬉しく、恐縮なことに両日ともに予定枚数が終了、完売となりライブに臨む気持ちが今まで感じたことのないくらいに大きくなっている。
とはいえ芸術祭は2022年1月22日(土)~3月6日(日)の会期中の金土日及び祝日と2月10日(木)、22日間開催されているので、興味のある方はぜひ足を運んでいただきたいと思う。私のライブパフォーマンスは、芸術祭の中のイベントである。素晴らしい展示がより素晴らしく感じられるよう、全力を尽くしたい。

そんなライブへの準備を進める中、およそ15年間をエレクトニックミュージックのライブ活動に身を置いてきたが、久しぶりのライブということもあり、この機会を利用して備忘録的にライブについての持論や考えておくべきことをここに記しておく。

ともすれば「PCを持っていってスタートボタンを押すだけ」でも成立してしまうエレクトニックミュージックのライブにおいて、空間を彩り観客の感情を揺さぶるための「演奏」とは何かという理解のきっかけにもなれば幸いである。

今回はシチュエーションに対していかに答えを出すか、という話。自分が演奏する場所を出来るだけ細かく想像し、シミュレーションを繰り返しながらライブの内容を考える。昨年10月に発表した新しいアルバムからの楽曲を組み込んだ初めてのライブでもあるので、それをどのように響かせるかを考察していく。

-第3段階- シチュエーションに答えを出す。

前々回ではライブのために音を改めて用意すること、前回はエレクトロニックミュージックのライブにおいての構成について。
今回は演奏する場所に対してどのようなライブを構築するかについて考察していく。

事前に次のライブのシミュレーションをする音楽家は多いと思う。
会場規模 / 時間帯、朝か昼か夕方か夜か / 屋外か屋内か / 会場の設備 / 土地柄、地域の雰囲気などなど。割とスタンダード。
年齢層はあまり気にしない。"ライブ"というくくりで演奏するので、表現の提示が先に来ることを考えると対象の年齢はあまり関係がない気がするからだ。

このシミュレーションが何をもたらすか。
前提として、私の音楽の原体験にはテクノが大きな影響を与えている。
具体例でいうと、会場規模は楽曲一つ一つの展開に関わってくる。小さな会場と大きな会場で機能する楽曲は違うのである。

観客の一人として会場にいるときに、視界に入る他の観客の動きが重要だ。

小さな箱ではなるべくブレイク(リズムが抜ける箇所)はあまり作らず、リズムをキープしていく方が良い。隣にいる人の足が止まれば自分も足を止めたくってしまうという連鎖が、少人数ではすぐに会場全体に広がってブレイクが冗長に感じてしまい、壮大な展開は逆に冷めてしまうことがある。
逆に大きな会場では観客全体で生み出すエネルギーが大きく、視界全体に一緒に音楽を楽しんでいる人が見えるので、長いブレイクを持った壮大な展開も他の観客と一緒に期待することが出来てむしろそれが楽しくなったりする。

また屋内ではすでに音の反響があるので空間系のエフェクトはここぞという時しか使わず、低音を重視した構造にするし、屋外では不自然に響く音がとても気持ち良かったりするので、空間系は割と多用するが、低音が抜けていってしまうこともあるので注意が必要になってくる。
もちろん会場の音響設備も絡んでくるので一概には言えないが。

そういったことを意識しながら、どんなライブにしようか考える。

では次の猿島でのライブはどうするか。

観客は無人島をまるまる展示会場にした芸術祭を鑑賞した後、まだ冬の真っ只中の夜の砂浜で音楽を聴くことになる。波の音が加わってくる。風もあるかもしれない。
波の音は自然界における最高のハイレゾ、低音から高音まで全ての周波数を含んだ音であるから、他の音が飲み込まれやすい。砂浜に低音が吸われることも想定する。

となると、音階は多めに用意して、エレクトロニカ的なアプローチを重視したライブが良いのではと考えている。空間的な広がりの中でたくさんの音の粒がきらめくような雰囲気。しかし、寒い夜であるから、棒立ちで体を冷やしてしまわないように、少し足を動かせるようなリズム感も持っておきたい。

こうして、ライブ全体の展開と、1曲1曲へのアレンジの方向性が決まっていく。そしてこの頭の中で出した答えを持っていって、観客の皆さんと共に本当の答えを見つけたいと思うのだ。

これが私の考えるライブの醍醐味である。

少しでも期待に添えるよう、良い答えを持っていきたいと思う。

1月29日、2月11日
Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島
@猿島 (横須賀,日本)
※予定枚数終了

公式ホームページ:https://senseisland.com



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?