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ドロテアの横顔

 真っ白な雪原に、一つ、また一つ。真っ赤な雫が落ちた。
かつて『猟犬』と呼ばれた私にも、最期の瞬間が近づこうとしているのかもしれない。指先も爪先も、極寒の風が吹き荒ぶ中では、冷凍された肉の腸詰めのようで、触れた感覚はとうに存在しない。そこから滴り落ちる血液だけが生きていると自覚させ、同時に体温を奪っていく。しかし、私は生き延びなくてはならない。何としてでも。猟犬ではなく、人間に戻って、この生涯を終えたいのだ。幼い頃に両親を亡くした弟と妹のために。その為に、どれだけの人間を殺してでも。私は生きて家に帰る。
風上の方から火薬と埃っぽいような燃え滓の匂いがした。その中に脂のような匂いも混じっている。近くにある村が襲撃に遭い焼かれたのだろう。私は更に風下へ引き摺った足を進めようと向きを変えた瞬間、銃声とともに左腕に激痛が走り、その場に倒れ込んだ。
腕章の辺りから湯気がほのかに上がり、雪原に真っ赤な花の絵を描いた。急速に体温が奪われてゆく。視界が黒く狭められてゆく。痛いほど冷たい雪が、ふんわりと柔らかく温かくも感じる。舌を噛み切るほどの力も微塵も残っておらず、血液に溶かされた雪のようだった。視界が真っ暗になる寸前、人間らしき影と声がした。

<続く>

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