昔好きだった短歌を読み返してみた(俵万智編)

中学生の私へ。先日部屋の片付けをしていたら、あるノートを見つけました。
それは、歌集を読んで好きだと思った短歌をメモするノート。
ものの見事に俵万智ばっかりです。それしかないです。あなたにとって短歌を始めるきっかけになった人だから致し方ない気もするのだけれどね。
多分あなたのことだから、ほかの人の短歌も書こうと意気込んだはいいものの、ノートの存在を忘れたり後回しにしてしまったのでしょう。
あなたが選んだ短歌を、改めて読んでみて思ったことを書いてみます。
どんな思いで記したのか、あなたに寄り添いながら読んでいけたらいいなぁ。
(ちなみにどの歌集から引用したのか、出典が明記されていませんでした。
歌集が手元にないのでそのまま載せています、ごめんなさい。)



樹は揺れる あなたが誰を愛そうと あなたが誰から愛されようと

上の句、最初の五音からその後のフレーズへの飛躍が素敵だよね。
私たちが何をしようとも自然は変わらずにそこにあって、「あなた」のことも作者のことも包み込む。
「あなたが誰を愛そうと」だけでもそれは伝わるはずなんだけど、下の句のダメ押しがより自然の気高さ(とはまた違うような……。うーん、うまく言えないなぁ)を際立たせているような気がするよね。


たからもの呼ばわりされて何となく違うと思うけれど言えない

自分の思っている以上の評価を受けること、嬉しく思う時もむず痒く思う時もあるよね。
ましてや「たからもの」。いやいや、そんな大層なものじゃないよ、なんて思うけれど。
「たからもの」という表現に大切に思ってくれている気持ちがぎゅっと詰まっていて、違うって言ってしまったらそういう気持ちまで否定してしまうことになるのかもしれないね。
違うなんて言えないなぁ。


簡潔に君が足りぬと思う夜 愛とか時間とかではなくて

下の句が上の句の詳細になっているけど、それを説明的に感じさせないところが俵万智のずるいところだよね。
これ、上の句と下の句の順番が逆だったら台無しだと思う。ちょっと下に書いてみるね。

「愛とか時間とかではなくて簡潔に君が足りぬと思う夜」

そもそも音数が合っていないけど、それを差し引いて考えてもやはりこれは改悪例の一つだと思う。
上の句で述べたことは本当に言葉通り「簡潔に」。それに対して読者はどういうこと? って思う。
そこで下の句登場。な、なるほど〜! っていう納得がワンクッション置いた分印象深く残るんだよね。
ちなみに、「愛とか時間とか」ではないなら、どういう風に足りないんだと思う?
私は成分としてっていう感覚なのかな、と思ったよ。



もう二度と来ないと思う君の部屋 腐らせないでねミルク、玉ねぎ

ミルクと玉ねぎってどういう風に腐るんだろうね。
うちは幸いしっかり者の母のお陰で腐らせたことがないので、これは未だに謎のまま。
一度腐っていた、もしくは腐る寸前まで放置されていたことがあって、最後までそれが忘れられない。
多分、今後の人生で「君」を思い出す時も、作者はミルクと玉ねぎ腐らせてないかなぁって思うんだろうなぁ。

ミルクは飲み物として腐りやすいイメージ、且つ家庭的なイメージがなんとなくない?
そして、玉ねぎは切るのが大変で、「君」は多分持て余してなかなか使おうとしない。
この二つが「君」が一人になっていくこと、つまり二人の別れを象徴するものとしての鍵になっているんだろうなぁ。なんて、深読みし過ぎかな。



海底で指をつなげばあなたしか見えなくなった南半球

この短歌の読みを私は未だにどうすればいいかわからずに迷っているよ。
海底で指をつなぐって、そもそもどういう状況なのかわからないし、手をつなぐじゃなくて「指をつなげば」なんだよね。
正直に言うとわからない。けどわかりやすい短歌が必ずしもいいものとは限らないし、わからない良さを感じ取ったからこそあなたもこれを選んだのだと思う。

ちなみに私は、これを読む度に泣きそうになるよ。
だって、「南半球」ってそれ、ずるくない……? 「あなたしか見えなくなった」って読者の視野を狭めておいて一気に広大な、広がりを持った言葉を置くのはかなりずるい。
海底で指をつなぐ、深い青の中に揺らいで見えるのは「あなた」だけ。
二人きりの世界の神々しさ、密度が「南半球」っていう言葉に集約されているよねぇ。


三月の海の青さよ 十日でも十一日でも十二日でも

3.11とその前後。これは最初に挙げた「樹は揺れる あなたが誰を愛そうと あなたが誰から愛されようと」と通ずる部分があるような気がするのよね。
というのも、短歌の意味というか、中身はまったく違う内容なんだけど、自然はいつだって変わらずにそこにあるっていうことが共通している。これって俵さんの元々の価値観が反映されているのかな。どうなんだろうね。
特別に見えるとしてもそれは自然がそうさせているんじゃなくて、我々が勝手にそう見ているだけなんだろうな。
変わらない海の青さが切ないね。


どんな愛過ぎて今吾の前にいる 知らずにいたいぐらい知りたい

「知らずにいたい」と「知りたい」は矛盾した感情のようにも見えるけどそうじゃない。
相反しているような感情がいとも簡単に同居してしまう、それぐらい相手への思いが強いってことが見えてくるよね。



私があなたから返事をもらうことはできません。だから、ここまで書いたことはすべて一方通行で、それでいいと思っています。
あなたが何を思って短歌を読んでいたのかを想像しながら、改めて鑑賞をするっていう作業はとても楽しかった。
でもやっぱり、欲を言うならあなたが初めてこれらのうたに出会った時、どう読んだのかを思い出して知りたいなぁとも思います。
それこそ、知らずにいたいぐらい。


浜﨑結花


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