7月4日

100円

年末の大掃除で、過去に手芸で作ったハンドメイド作品を全部捨てた。

こう書くとなんか挫折感や悲壮感があるけれども、そこまでではないです。ただでさえ片付けが苦手で、ついついモノが増えてしまうズボラな体質なので、もうバンバン突っ込んだ。もったいない、とか言って取っていてもいつまでも片付かない。

それらは主にレジンという樹脂をつかったハンドメイドの作品なのだが、これでも以前はドハマリしていて、作品をひっさげて小さな地元のイベントなどに出店もしてみたことがある。ちゃんとやっていくつもりになって、お友達に頼んで屋号まで考えてもらったのに、この体たらくは申し訳ない。

レジン作品作りは楽しかった。イベント出店自体もわくわくして楽しかったことが多かったのだが、他の作家さんの素敵な作品を見るたびに、徐々に「自分の作品にオリジナリティがない」ことと「ひと様の作品を見たり買ったりしたほうが楽しい」ということに気づいてしまったのだ。「大量生産品にはない美しいものが欲しい」→「作ろう」だったのが、「自分で作るより綺麗なものや素敵な作品が買えるなら買ったほうがいいやー」になってしまったのである。あれ?結局は挫折? というわけでデザフェスとか大好きです。毎回アホほど散財してる気がする。

まあそんなわけで、がっさがっさと過去の作品…それこそ、何度か出店のときに持っていったレジンアクセサリーをゴミ袋に突っ込んでいた。持病が悪くなってから体のことにかかりきりになり、年単位で放置してしまっていたので、品質的にも売るわけにも、誰かにあげられるようなものでもなくなっている。大量にあるパーツもほとんどがそんな状態なので、どうしたもんかなあと思っていると、ふと最後にイベント出店したときのことを思い出した。

最後の出店は、地元の小さなお祭りのフリーマーケットだった。地方のイベントによくある「ふれあいマーケット」的なやつである。なんで地方イベントってすぐふれあいってつけたがるの。ガチのハンドメイドイベントでもないし、ど田舎の小さなお祭りなので価格は抑えたつもりだったのだが、それでもフリマの中では浮いていたし、作品のレジンアクセサリーたち(ネックレスやイヤリングやストラップなど)自体も魅力が足りなかったのか、あまり売れ行きはよくなかった。おまけに当日はクソ寒かった。

お客さんもちょっと眺めてそのまま通り過ぎるか、たまーに買ってくれる人がいるかぐらいだ。まあいいわ…そんな期待してなかったわ…。と、文庫本を読みながら店番をしていると、なんかやたらキャーキャー言う声が聞こえた。なんぞやと顔をあげてみると、小学生の女の子たちの集団が私の店(?)の前ではしゃいでいた。3年生から6年生くらいの子たちが5、6人ほど。


「キレイ!これ欲しいー!」
「かわいいー!」

並べられたアクセサリーを手にとり、キャッキャウフフとそんなことを言ってくれるわけである。あらやだ嬉しい。だが、彼女らは価格の札を確認しはじめたらしく。

「え、高いよー!」
「なんでこんなに高いの?!」

口々に子供の容赦のないお言葉を浴びせ始めてくれたのだ。材料費とかそういう概念がないんだよ仕方ないと思いつつもグサグサくるものがある。

「いや材料費とか色々あるんすよ…」

一応お客様なので敬語にもなる。というかグサグサに屈して敬語になっていた。

「全部100円にすれば全部売れるよ!」

いやそういうんじゃなくて。
しかし、その無邪気ガールズはなんやかんやヘアピンやストラップ、イヤリングなど、300円から500円くらいの価格で売っていた作品を買ってくれた。ありがとうございます。そして祭り会場のほうへまたきゃぴきゃぴと去っていった。

「ねーねー、なんでこんな高くするの?」

…なんでか知らんが数十分後にまた戻ってきた。そしてその疑問やめろ。

「あれね…こう、このアクセサリーは樹脂でね、つくるのね。あと金具とかチェーンとか、材料買うとそのぶんのお金をね…」
「この子ね、学年の女子で一番握力あるんだよ!」
「いや知らんがな」

お前らから話ふってきて謎のキャラ紹介やめろ。ともかく、無邪気ガールズは特に行く場所もなくなったのか、私の店の前にたむろしはじめた。私の作品を眺めたり触ったり、相変わらず高い、安くしてと値下げ交渉をしてきたり、どうやって作るのか聞いてきたり、この子はだれだれちゃんの妹だとか、知らんがな情報を披露したり。あげくに調子に乗った一人は店であるテーブルの内側に侵入してきて勝手に在庫を漁りだした。このクソガキがぁああああ!!と叫びつつ追い出したりするも、無邪気ガールズはキャッキャと楽しそうにするばかりである。完全になめられていた。その後も無邪気ガールズはたまにいなくなってはたむろするを繰り返し、私は謎の攻防戦を繰り返していた。

結局、そのままフリーマーケットの終了時間になってしまった。雪がちらつくまで天気は崩れてきていた。体は芯まで冷え切っているし、無邪気ガールズとの戦いで疲れたし、結局たくさん売れ残ってしまった。あー、もう来年はここに出店はやめよう…とげんなりしながら私は店の後片付けはじめた。

作品をスーツケースにしまい、折り畳みの机をたたんでいるときだった。無邪気ガールズがまた戻ってきた。あーもう、またかよ…邪魔すんなよ…とうんざりしながら振り向くと、彼女らはさっきまでの舐めくさった態度とうって変わって、しょんぼりとした表情でさっきまでテーブルがあった場所を見ていた。

「帰っちゃうの?」

「帰るよ。もう終わる時間だし」

なんだその顔。そうだよお前らがさんざんイジってくれたお店やさんは帰るんです。疲れたし。すると、無邪気ガールズがタダダっと寄ってきた。

「ねえ、来年もお店だす?」
「絶対きてね」
「今度はもっとお小遣いためてくるから!」

必死にお願いしてきた。あまりの落差に驚いてしまって、あのときのあの子たちの顔は今でも強く印象に残っている。さっきまでキャッキャと笑っていたのに、ふざけて言っているような子は一人もおらず、みんな真剣な表情だった。

「…まあ、気が向いたらね」

絶対来るわボケェエエエエエエエエ!!!
口ではクールにふるまっていたが内心そらそうなるわ。チョロイとか言うな。よく言われるんだ。でもそんな顔されたら来るしかないやろ。なんやねんこいつら。卑怯か。

よくよく考えたら、お祭りに持ってくる小学生のお小遣いなんて1000円から2000円くらいだろう。その中から、無邪気ガールズは(材料費や手間賃という概念はなかったにしても)高い高いと言いながらも、お金を払って私の作品を買ってくれたのである。店の内側はいってきたのは本当に首ねっこ持ってぶん投げたくなったが、今度はあの子らが手にとりやすい価格のものを作って持ってこよう。ハンドメイドってそうじゃねえだろうと思われそうだが、地元のフリマである。厳密なハンドメイドイベントでないなら、そういうものがあってもいいはずだ。そう思って、私は内心どうにかコストカットする案を考えながら帰路についた。

…結局その決意は果たせていない。その次の年くらいから体調を崩し、そのまま持病が悪化してしまったからだ。その治療にかかりきりになり、かつ同時に絵のほうに比重が大きくなり、さらに自分自身の欲のほうは前述のひと様の作品を買うことで満たされてしまい、すっかりレジン作品制作は置き去りにされてしまって…年末の大掃除で当時の売れ残った作品をゴミ袋に突っ込んでいたわけだ。悲壮感はないと書いたが、本当のところは少しだけ寂しさはある。こんなゴミ袋に突っ込むくらいなら、本当にあのとき全部100円とかで、あの子たちに売ってあげちゃえばよかったな…と思ってしまう、そんなグレーさんでした。どうぞよろしくお願いします。