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受容されるエロの基準とは

性的消費という話題についての議論で、よく出てくるのが『基準は何なのか』というテーマです。今日はそのことについて自分なりに考えたことを書いてみたいと思います。

1.現在の刑法上の『わいせつ』基準とは

まず現在日本には、刑法175条わいせつ物頒布等の罪という法律があります。

そして何がわいせつ物にあたるかというと『いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的な羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するもの』と定められています。

定められていますと書いたのですが、これは『わいせつ』という言葉を説明しただけで、具体的に何がわいせつなのかわかりませんよね。

今のところ実際の運用では『性器の露出がある』とアウトです。AVでも性器にモザイクがかかっていますね。

2.じゃあ18禁の基準って何!?

さて、では刑法における『わいせつ』をクリアすれば(性器に修正さえかければ)何でも販売/購入できるのでしょうか。

答えはご存知の通りNOです。

アダルトビデオや成人雑誌など【18禁】のコンテンツは18歳未満の人に売ったり貸したりすることが各都道府県の条例で制限されています。また、売り場をわけるなどのゾーニングも定められています。

では何が18禁になるのでしょうか?

東京都の場合、まず出版社が『性的感情を刺激し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの』と判断した書籍を【表示図書】としています。

ここでまた『性的感情を刺激』という曖昧に見える言葉がでてきましたが、東京都の場合

全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態を描写することにより、卑わいな感じを与え、又
人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること。


性的行為を露骨に描写し、又は表現することにより、卑わいな感じを与え、又は人格を否定する
性的行為
を容易に連想させるものであること。

強制性交や強制わいせつなどの性犯罪
児童買春児童ポルノに係る行為等

ハ 近親者間における性交等

社会的に是認されている ものであるかのように描写し又は当該性交等の場面を、みだりに、著しく詳細に 若しくは過度に反復して描写し若しくは表現

と刑法よりは具体的な基準が記されています。上記のような表現のあるコンテンツに対し、出版社や販売元が18禁、成人向けいう表記をするよう“努めろ”としているのです。

さて、刑法よりマシといえ、どのようなものが前述した基準にあてはまるのでしょうか?

鍵となるのは

全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態や性的行為を露骨に描写し卑わいな感じを与える

をどう解釈するか、ということになります。

性行為をしていても、(修正入り)性器が書かれていても『露骨』じゃない『卑猥な感じ』を与えていないと出版社が判断すれば【18禁】の【表示図書】にはならないわけです。

例えば週刊ヤングマガジンで連載されていた『ハレ婚』では、そこそこセックス描写があります。

例えば『処女の女子高校生』が『コンドームなしならセックスはOKでない』と言っているのに挿入し『痛い、無理、死ぬ』という描写があるのですが(結婚しようとは言ってる)

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ハレ婚は【18禁】ではありません

個人的には全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態や性的行為を露骨に描写し卑わいな感じがするのですが、出版社の基準ではこの程度は露骨でも卑猥でもないようです。

しかし、この出版社の判断がいつも受け入れられているわけではありません

出版社が18禁の表示図書にしなかったものでも東京都が定めた自主規制団体から意見が出た出版物は、東京都青少年健全育成審議会で審議にかけられます。そこで『著しく性的感情を刺激するもの』などの基準に触れ青少年に不健全な図書だと認定されると指定図書という扱いになります

【指定図書】【表示図書】の何が違うかと言うと、指定図書は18歳未満への販売やレンタルをしてはならないと表示図書(販売やレンタルしないように努める)よりも厳しい制限がかかります。

つまり18禁の基準とは

全裸若しくは半裸又はこれらに近い状態の姿態や性的行為を露骨に描写し卑わいな感じを与える

と出版社や東京都青少年健全育成審議会が判断したものです。

私は出版社の人間でも東京都青少年健全育成審議会のメンバーでもないので、正直どのような議論や基準で彼らが判断しているかわかりません。しかしもし出版社の人間だったら、甘い見積もりで表示図書にしないで後から指定図書にされることは避けたいと考えます。

3.18禁じゃない表現はいつでもどこでも許されるのか?

さて、18禁の基準についてざっくり説明しましたが、では【18禁じゃないコンテンツ】ならば社会はいつでもどこでも受け入れられるのか?ということを実際に水着のイラストで考えてみたいと思います。

ここに8つのスクール水着のイラストがあります。(絵の右側の低、中、高は私の主観的な性的スケールです)

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さて、これらの絵はどれも性器や乳首が描かれていませんし、性的行為もしておらず当然18禁のイラストではありません。どんな場所に使おうと『合法』です。しかし『合法』であることと『社会的に受容』されることの間には隔たりがあります

仮に

①学校のお便り

②スクール水着の売り場

③スイミングスクールの広告

④低学年向け雑誌

⑤高学年向け雑誌

と5種類の目的や公共性、ターゲットの違うコンテンツがあったとします。あなたはそれぞれどのイラストの使用を許せるでしょうか?あるいは社会的に許されると思いますか?

例えば私の場合、学校のお便りや水着売り場、スイミングスクールの広告の場合スクール水着1、2のイラストは完全に許容できます(男子のイラストもいれといた方がいいと思いますが)。

しかし3になると、何故この絵を?と疑問を抱きますし、状況によってはこの絵を使用するのはいかがなものかと意見を伝えたり、周りの保護者に『あれどう思う?』と相談するかもしれません。4〜8は確実に不適切だと思いますし意見を言うでしょう。

さて先ほども申し上げましたが、こうしたジャッジメントは私の基準に過ぎません。信仰する宗教によれば1すら露出が多いから不適切だという人がいるかもしれません。逆に4でもストレッチしてるだけじゃないの?と許容する人がいるかもしれません。

各人の『性的ジャッジの指標』や『基準』が違うのは当然です。明確に定められた基準などというものは存在しないのです。発行側は許容されるだろう常識的な範囲を自分で考えイラストをのせます。これは丁度表示図書と同じで、発行側が許されるレベルか判断するということです。

表現物をうけとったとき、誰もが自由に意見を言う権利があります

『スクール水着1のイラストは性的だから不適切だ!』という意見も『8は性器露出してないし性的じゃない、不適切じゃない!』という意見、どちらも等しく守られるべき意見表明です。

こうした様々な受け手の意見を聞いて、イラストを差し替えるのかそのままにするのか、また謝罪をするのか等は発行側に委ねられます。個人には東京都が【指定図書】を定め頒布を制限するような権力はありません

各メディアや発行側は『風』を読み、喜ばれる表現/認められる表現を見極める必要があります。

ネットの発達で万人が意見を言えるようになったことによる大変さはあるでしょう。

しかしその大変さは、根本的には東京都青少年健全育成審議会が何を『不健全』と定めるのか見極めることと変わりはありません。

社会が許容する/できる表現の基準というものは、社会の構成員が常に入れ替わり続ける中、流動的なものであることは避けられません。

その表現がその時、場所に相応しいかということは対話の中からしか判断できないものだと私は考えます。

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