男性の自殺を減らすには何ができるか
男性の自殺が多いことが問題だという意見をよく見ます。そこで、何故男性の自殺が多いのか、どうすれば改善できるのか自分なりに考えてみたものをまとめました。
基本データ
平成30年の厚生労働省のデータでは男性の自殺者は14249人
女性は6921人なので、男性の自殺者は女性の2.05倍です。
海外と比較してみると程度の差はあれ、各国男性の方が自殺者が多くこれは日本だけの傾向ではないと言えそうです。
自殺の理由(若年層)
どのような原因で自殺する男性が多いのか、先ほどの厚労省のデータを見て考察したいと思います。まず〜19歳の若年層では男女差は1.2倍と比較的小さいと言えます。
学生で男女の差が目立つのは、学業不振による自殺(3.3倍)です。2019年の大学生を対象としたデータでは留年した学生は
男性76% 女性24%でした。自殺者とほぼ同じ割合であることから、学業不振による自殺は留年と関係が強いのではないかというのが私の推論です(私自身が少し成績が悪い程度では動じないメンタルの持ち主というバイアスがあるかもしれません。皆さん成績が悪くて本気で死にたくなったことありますか?)。
学生の自殺はもちろん問題でなのですが、母数が少なくこの年代の自殺に関して他の理由についての分析は断念しました。
自殺の理由(20代以上)
次に成人について考察してみたいと思います。全体の男女差2.05倍より差が大きい(特に男性が自殺しやすい)理由を以下にあげます。
1.家庭問題(差異小)
①夫婦関係の不和 2.8倍
2.健康問題(差異小)
①身体的な病気 2.12倍
②アルコール依存症 3.16倍
3.経済問題(差異大)
①倒産/経営不振 10.4倍
②失業/就職失敗 7.8倍
③生活苦 5.2倍
④負債/借金取り立て 9.4倍
4.勤務問題(差異大)
①仕事の失敗 8.9倍
②職場環境の変化 15.5倍
③仕事疲れ 8.1倍
5.男女問題(差異小)
①失恋 2.4倍
6.その他の項目
①犯罪発覚 8.6倍
②孤独感 2.4倍
各項目についての考察
さて男性が自殺しやすい理由を列挙しましたが、社会的に対策可能なものと、難しいものがあります。例えば夫婦間の不和や失恋などについてはなかなか介入できる問題ではないでしょう。
ここでは政治が介入できる課題として「経済問題」と「勤務問題」について考えてみたいと思います(生活苦はこの二つに内包されるものとします)。
1.倒産/経営不振による自殺について
帝国バンクが2018年に120万社のデータを集計したところ、男性経営者は女性経営者の12倍いました。倒産や経営不振を理由にした自殺が女性の10.6倍発生していることはその影響だと考えられます。経営者の男女比の偏りがなくなればこの比率も変わるでしょう。性別に関わらず倒産/経営失敗したときに自己責任と切り捨てるのではなく再起できる社会にしていくことは、自殺者を減らすだけでなく挑戦する人を増やすためにも重要だと考えます。
2.失業/就活失敗
失業や就活失敗が自殺につながってしまうのは、改善されてきたといえ新卒一括採用/年功序列という企業文化の弊害ではないでしょうか。一度道から逸れてしまうと希望した企業や業界で働けない、あるいは非正規労働者から正社員へのキャリアアップや再就職の難しさが影響していると思われます。
またメディプラス研究所・オフラボが行った「ココロの体力測定2018」というワークライフバランスに関する意識調査では、男性は女性に比べて“ワーク寄り”の考え方をする人が多く、思った仕事に就けないあるいはリストラのダメージが女性より大きいことが考えられます。「男性は稼ぐべき、出世するべき」という男らしさを実現できる人にとって、仕事はやりがいがあって楽しいものでしょう。しかしその男らしさに適応したくない人、できない人も内外のプレッシャーを感じることなく過ごせるようになることが望ましいのではないでしょうか。
3.借金について
借金を理由に自殺する男性が多いのは、そもそも男性の方が借金をする人が多いことが大きな要因でしょう。カードローンや消費者金融では大体7:3の割合で男性が借入しています。
また平成30年の国土交通省が行った民間住宅ローンに関する調査では融資に際して「性別」を考慮すると答えた金融機関等が15%あり、住宅ローンを組む際に夫側の方が借り入れしやすいといった事由も考えられます。
また借入する人は男性の方が多いにも関わらず、自己破産する比率は男女でおよそ1:1です。借金でどうしようもなくなったとき、自己破産等を選択する男性が女性に比べて少ないと言えるでしょう。
4.勤務問題について
職場関係の変化や職場の人間関係についてはその中身についてのデータがないため、ここでの考察には含めません。
仕事のミスや仕事疲れについては、長時間勤務や属人的な仕事で業務を任せられないといったことが問題になっている可能性が高いでしょう。睡眠時間が短い、労働時間が長い年代ほど自殺が多いことがわかっています。心身を消耗させるような働き方をしてしまう、あるいは強いられる点は大きな問題です。
長時間勤務や休日出勤などの過酷な勤務は、出世や給与などに反映される一方で勤務を理由にした自殺の多さにも繋がっているのではないでしょうか。
2015年に博報堂が行った調査では、独身男性は「男は働くべき」「男は稼ぐべき」「男は家族を養うべき」「男は我慢すべき」という男らしさ規範を既婚男性の1.3倍持っているという結果がでました。男性自身が内在化しているこの男らしさ規範をいかに解消できるか、また社会(職場だけでなく家庭や学校現場)がこうしたプレッシャーを与えないことも重要でしょう。
意識改革だけでなく、物理的に仕事時間を減らすことも大きな課題です。業務の効率化、残業時間の抑制などワークライフバランスの改善は両性にとって好ましいものですが、利益を追求する企業の自主努力だけに任せても改善は難しいでしょうから、政治的な介入が必要な点だと言えます。
自殺者を減らすために何ができるのか?
以上の考察から私が考えた自殺を減らすための方針は以下の5つです。
1.相談機関の充実(仕事をしていても相談しやすい時間帯の電話相談やメンタルクリニックの拡充)
2.男らしさ規範を解消する教育
気軽に相談することのメリットを伝える→厚生労働省が令和元年に衆議院に提出した資料によると、SNSでの自殺相談事業に相談した人のうち男性は7.9%だけでした。また平成27年度の電話による自殺予防相談も男性は33.9%と、自殺者の人数に比べて相談数が少ないことがわかります。女性のほうがよりカジュアルに相談できる傾向があるようです。“男性は耐えるべき”という意識が、自殺を増やす一因になっている可能性があります。また男だから稼ぐべき/働くべきというプレッシャーを与えるような教育が、仕事関係において失敗した際に大きな重荷になっていると考えられます。
3.適切な金融リテラシー教育(多重債務、ギャンブルや性風俗などによる無計画な借入を減らす)、自殺する前に自己破産などの相談ができるようにする
4.ワークライフバランスの是正/多様なキャリア形成
5.ポジティブなストレスケアの啓蒙
アルコール依存症の多さ(女性の約7倍)や喫煙率の高さ(3.6倍)、ギャンブルや性風俗関連の借金の多さなどを鑑みると、適切な(自分の身体や経済に深刻なダメージを与えない)ストレスケアができない男性が一定数いることが浮かび上がってきます。ストレスを解消するための行為が、新たなストレス源になってしまうのは本末転倒です。「男だから我慢しろ」ではなく、どうすれば健康的にストレスを解消できるのかを啓蒙していく必要があります。
男性自殺者を減らすために、あなたはどのような方法があると思いますか?
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