見出し画像

大阪礼賛 ハイエナ篇

 2023年11月25日

00:35
 
新幹線高架下 路地
 
暗く消えた、飲み屋の提灯が見える。
振り返えれば、まだ明るく光の灯る
2階のライブ会場、torinosuが見える。
 
身支度をする菅野さんと
店主さんがお話をされている。
小さく目に映るその姿を眺める。
胸中に申し訳なさが先立つ。
 
長い長いライブの後に引き留め
話し込んでしまったことを反省する。
部分的でも、自分語りをした後悔が
一度に押し寄せてくる。
ひどく酔っている。
 
「なぜ、あの話をしたんだ」
 
自分を責める。
唸るように絞り出す。
自責の念に顔をゆがめ
背を丸く縮こませる。
南へ歩き出す。
 
傾きかけた、天空の月 
 
1人の男は、ぶつくさ唸りながら歩く。
2週間前とは比にならない寒さの中を
素晴らしいライブを思い出しつつ。

心は混乱していた。
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
 
21:50

ステージは最終盤に入る。

第5部「暮らしの中で」をテーマに
歌が広がりを見せた。
 
今回の構成はリクエスト曲をたくさん入れ、
中には、忘れて練習した曲もあったという。
 
 
私もリクエストをした。

「ひかり」という曲。


リクエストを送ったのは当日の朝
期限は夜だったに、悪いことをした


些細な日常生活の先にある閉塞感

美しくも儚げなメロディライン

「ひかり」の歌詞の中には、こうある


 
 
「偽善者も神もいないよ ここには」
 
 


菅野さんの楽曲を聴きたくて、検索していた
昨年の冬、YouTubeでこの曲と出会う。



 
この曲を初めて聴いたときに
中学から高校までの記憶が呼び起こされ
日々がフラッシュバックする。 

故郷の「家族」、信仰と教育、過保護、
親友、宗教戦争、消された月。
ドス黒い光景の波。
地続きでしぶとく生きている記憶。

ただここには生活がある、音楽がある
それがどれだけ救いだろう。

あそことは違う場所まで歩ませてくれた。
彼らを友と呼ばず何と呼べばよいのか。


 
「誰が誰を 裁けるというのだろう」
 

 
涙が漏れる まだ、生きている

神様を信じられなくなった私は
経験が全てで、見てきたものを回想しては
思い出に左右されるまま、生きている。

信念とか、信仰とか、理想とか。
そんなものに、人は巻き込こまれて
生き死にを考えたり、悩んだりして。
報われないままにいるのにだ。
 
か細く息を吐く。
情けなく鼻をすする音が
動画に記録されていく。


演奏が終わり、右手を私に向け
「リクエストは、はぐ(ぱぱ)さんから!」
と、菅野さんはコールする。
 
私はひどい顔をしていたのだと思う。
慌ててかぶりを振り、笑って誤魔化す。 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

アンコールにて「まんまる」が歌われ
全ての演目が終了する。
 
菅野さんは少し声もかすれ気味になっている。
長時間、たくさんの歌を歌い切った。
思いを出し切り安心した顔をしている。
 
幕後、お客さんは思いの丈を
順番に菅野さんへぶつけていく。
北海道への引っ越しを機に
暫くは、ライブの頻度が減る。
菅野さんも時間をかけて
それぞれと対話をしていく。
 
とても良い光景ではないか
酒を飲みながらそれを眺めている。


1人の女性が会場奥から来て隣へ座る。
「こんばんは、はぐぱぱさん」
おや。またまた知り合いが。

見覚えはある。
名前が出てこない。
自分とは何と失礼な奴だろう。
覚えてはいるんです。ごめんなさい。
名前が出ないことが恥ずかしく仕方ない。
「すみません、お名前を…」
とバツの悪い顔で聞くと
彼女はにこやかに、良いんですよ!と
自己紹介する。
彼女は「あゆみさん」だ。
いつも「いいね」を押してくださる。
以前、鑪ら場でもお話ししている。

彼女は小さな包みを渡してきた。 
「良ければ」
と。
見れば、手製の石鹼である。

口先まで
「汚れきった私の心がよくわかりましたね!」
などと言いそうになり、やめる。 
一体何を言わせる気だ。やめてくれ。
言わせないで正解。

それはとても綺麗な代物で。
青と乳白の小さなかわいらしい石鹸。
宝石みたいに見えた。
 
「かわいいなぁ…ありがとうございます」
 
私は…なんだかいただいてばかりだ。
心の隅に後ろめたさが手招きしている。
呼ぶな呼ぶな。
 
一方的な言い分だが。
同じライブへ来て、同じ曲を聴き
同じ演者へ愛を以て耳も心も傾けて
ここに集った人なれば、
それは、友人のようなものだと思う。
 
優しさや友情を抱くことに
少なくとも、私は、何も抵抗がない。
ただ、純粋にそう思える。
 
大切に思えない理由が見当たらない。
 
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
 
順次、お客さんが波のように引いていく。
私は、ハイエナのように待つ。

自分の順番は最後でいい。いつもそうする。
ゆっくり話ができる。それまで酒を飲む。

こういうとこは本当に陰湿な性格だと思う。
ゆるやかに時間がすぎる。
 
一度購入したが、擦り切れ再生できなくなった
「swimming」というCDをもう一度購入する。
 
好益さんがお会計してくれる。
私は伝える
「このCDは名盤。素晴らしい。
 大好きな曲しかないし。
 何度でも繰り返し、ずっと聴いていられる」 
と伝えると、 
「ほんとそう!ずっと聴ける!
 曲は短いけどバリエーションあるから…」 
強く、同意してくれた。とても嬉しい。
菅野さんも彼女の後ろで
とても嬉しそうにしている。
 
お客が私を除いて皆家路へ戻った。

「時間、まだ大丈夫…です?」
さすがに申し訳なく、尋ねる。
好益さんが店主さんに確認してくれる。
12時半くらいまでならと伝えてくれた。
 
菅野さんは缶ビール。
好益さんと私はロックのお酒。
三人、小さく乾杯する。
 
今年のライブについて
きっかけはお二人だったこと
感謝を伝える。

それで充分だったし
満足して帰るべきだった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

菅野さんに今後の話を聞く
私は自分の家族や仕事の話をする
愚痴っぽいことを言ってしまう。


もっと音楽の話をしなきゃ
話したいことはこれじゃない。


思うほどに、自分語りになる
これじゃあただのクソジジイじゃあないか。
なりたくない大人になっていく。

好益さんは後片付けを進め
先にお別れとなる。
また、どこかのライブハウスで。

疲れている主演と酔いに任せ
時が来るまで話し込んでしまう。

彼は終始穏やかであった。

別れしな、遅い時間まで
自分語りばかりしたことを詫びた。

菅野さんは答える

「いろんな人生があるなぁと思うし、
 けっこうしんどい想いしてきた
 はぐぱぱさんのことわかりました。
 知らない部分が少し知れて良かった。
 また、いらしてください」

こんな良い真人間を前に
甘えている自分を恥じる。

別れの握手をしてくれた、彼の指先は
ひかり輝いているように見える。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

00:36

帰り道を探す。

土地勘がないとこうなる


そこから翌朝に菅野さんから
お礼のDMがあるまで、反省と後悔が
波のように押し寄せ続ける。


長い、とても長い帰り道。
夜は思い出ばかりを呼び寄せた。




つづく





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?